1章7話

「……きてください」

微かに女性の声が聞こえた。 うっすら止めを開けると、凛が覗き込んでいた。

「いつまで寝てるつもりですか、起きてください」

「うわぁ!!」

「ようやく起きましたか。おはようございます、佐々アカネさん」

そうか、人生交換をして今はもう“佐々アカネ”という人物になっているのか。

「では最後の説明をさせていただきます。大丈夫ですか?」

「大丈夫だ」

「人生交換後の姿は交換前から変わりません。そこはご了承ください。

人生を売却した瞬間に記憶、データがなくなると言いましたが、人生を購入された瞬間、戸籍上のデータは復活します。と言っても、本当にデータだけ。名前と生年月日だけなんです。記憶は戻らないので、ご親族はいない事になります」

「…つまり?」

「先程戸籍上から佐藤一樹さんはいなくなりました。いつかあなたの人生を購入される方が現れれば、その瞬間、8月23日生まれの佐藤一樹さん、というデータだけ戸籍に追加されます。今回の場合、佐々アカネさんのデータが先程戸籍に再び登録されました」

「よくわからないが、凄いな。どういう仕組みなのかが全く分からない」

「仕組みは私たちにもわかりません。そのような事は全て死神界資料管理課の仕事なので」

死神ってそんなに凄いものだったのか。

「では、説明を全て終了しました。何か質問はございますか?」

「ありません」

「わかりました。この度は人生をご購入いただきありがとうございました。新しい人生をどうか楽しんでください」

凛はそう言って深くお辞儀をした。その瞬間周りが光り、目を瞑った。

数秒後、光が消え、ゆっくり止めを開くと、さっきまでいた人生堂が無くなっていた。見渡してもあるのは使われていないビルや崩れかけている建物しか見当たらない。

「……消えたのか」

何も変わった気はしないが、確実になにかは変わっていた。佐々アカネの18歳。新たな人生を…!

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