3/文明の力
「遅れてゴメン」
志麻は能力を行使したまま、乗ってきたバイクから飛び降りた。急いで来てくれたのが伺える。間一髪だった。でも、彼女が来てくれるまでの時間を稼げたのなら、ジョーとしては本望である。
光の粒子を放ちながら変化したコンクリートは、マンモスの
ジョーは、少し離れた高架線上に何とか受身をとって着地すると、すぐさま移動を開始した。巻き込まれないようにである。敵の動きは封じた。後は頼むぜ、幼馴染。
穴に飲み込まれていくマンモスの上空に、アスミは緑色の光に包まれて浮遊していた。先ほど切断した周囲の電線から、火花を散らしながら電気が彼女に集まっている。今、この街を動かしている力。文明を動かしている力。出力十分。
「『雷のニコラ・テスラ』!」
アスミは自分自身を稲妻と化し、マンモスの背中に急転直下した。周囲に電気と衝撃波が
バチバチと周囲に火花を残留させながら、数度
ジョーが非常用階段から下に降りていくと、アスミと志麻がマンモスの変化を見守っているところだった。淡い光に包まれて、等身大の人間の大きさに収まっていく。現れたのはニット帽をかぶった青年で、気は失っているが命に別状はなさそうだ。
「やっぱり、獣化系の能力者だったのね」
アスミが男の脈を確認しながら診断する。
「巨大化願望? これだから男って」
志麻が呆れたように、ジョーの方を振り返る。
「え。男って、一括りで言われてもな」
ジョーが突っ込むと、志麻はキっと目を鋭くして、顏をぐんとジョーに近づけた。鼻先が触れてしまいそうな至近距離で、甘い香りがする。年相応の素の可愛さのアスミに比して、少し背伸びして女としての魅力を演出しようとしているような。それでいて成熟にはまだ遠い
志麻はしばし無言で
「アスミ、
その労わりを、あえてジョーには向けない。こっちにも少しは優しさを分けてくれたなら。そんな欲も出かかるけれど、志麻は何よりもアスミのことを大事に想っているのを知っている。今ではその気持ちの重さをジョーも尊重している。
「電線、どうしよう。
当のアスミは、自分の体のことよりも、街のことを気にしていた。ちなみに、高架線に空いた穴は、既に志麻が能力で元に戻し始めている。
「ま。でも。人が死んだりするよりは、全然イイわよね」
アスミは自分で納得したようにそう述懐すると、ホっとしたように街並みを眺めた。一陣の風が吹く。
いつも通りの街である。ビジネスマンさん。学生さん。主婦さん。おじいちゃん。おばあちゃん。お父さん。お母さん。子供さん。赤ちゃん。車掌さん。パン屋さん。メイドさん。パっとは名称を思いつかないような、今日の自分の事をやっている、みんなみんな。
街には命が溢れて巡っている。付け加えると、奇跡的に、この日のマンモス事件があってなお、電車はダイヤ通りに進み、街の人達はこの非日常の一幕を特に意識するでもなく、各々の日常を歩んでいた。
「こんな私でも、守れた」
アスミの声が遠く響いたところで、意識は一旦あの日へ。
何故、宮澤ジョーがこのような非日常的戦いに身を投じているのか。彼にはどんな能力が宿っているのか。
物語を始める前に、振り返っておかなくてはならない夜がある。
/プロローグ・A
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