2/生身の人間だけど、やってやるぜ

「『風のイェスペルセン』!」


 上空を吹いていた風がアスミに向かって収束すると、次の瞬間には鎌鼬かまいたちへと変貌して周囲に解き放たれる。電柱と電柱を繋いでいた電線がバチバチと切断されていく。


(さて、俺の番だ)


 体術の心得がある。この技を最後に使用したのは、数年前のスポーツの大会でのことで、その時は百キロオーバーの巨漢を投げるのに成功した。が、さすがにマンモスに使用したことはない。だが。


「やってやるぜ」


 ジョーはゴロゴロとマンモスの体表を転がり落ちながら、一点を目指した。マンモスの牙である。


 相手が動く力と、自分で生み出した遠心力を利用して投げる。支点は本来なら相手の腕で、腕にぶら下がるようにして投げる、柔道でいう「うでがえし」の応用編のような技だ。今回は牙を支点にするので、「きばがえし」になるだろうか。


 マンモスのおでこまで達すると、全身のバネを使って飛び跳ね、最後の距離を詰めた。溜まっているパワーは十分。マンモスの牙を腕で抱え込んでロックすると、そのままぶら下がり、全体重をかける。マンモスの突進力と、回転で増している自分の重さと、全てのパワーが上乗せされるポイントは。


(ここだ!)


 一気に「ひねり」を加える。マンモスの体が傾く。


「もう一回転!」


 力が不十分だと判断し、瞬時のアドリブ。牙を支点にして、ぐるりともう一回転。


 巨大生物の体はさらに大きく揺らいだが。しかし。


 バランスを崩し、一時停止しながらも、線路横の壁面に寄りかかる形で、横転まではしなかった。宙に投げ出されたジョーと大きい目が合う。


(俺。わりとイイ線までは行くんだけどな)


 倒しきれない。これでは、マンモスはすぐに疾走を再開し、もう間もなく駅は大惨劇に見舞われてしまう。


 その時、線路の下から聴き慣れた声が響いてきた。


「『機構的なリ・エンゲージ再契約メント』!」


 声の主は味方である。亜麻髪サイドテールの美少女――志麻しま颯爽さっそうと現れた。


 マンモスの下の線路。さらにその下のコンクリートが高速で「組変わって」いく。彼女も能力者である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る