非幸福者同盟

相羽裕司

プロローグ

1/信頼


 プロローグ・A/


 地面よりは空に近い場所。高架線こうかせんの上を、電車ではなく大きなマンモスが走っている。


 疾駆する巨大生物の背中に何とかしがみつきながら、少年・宮澤みやざわジョーは真顔で現在の自分の状況を確認する。つい先日までありふれた日常を生きていたのに、今は何だかハードなことになってるな、と。


 隣には、黒髪ツインテールの少女が一人、ジョーと同じようにしがみついている。


「絶対に止めてみせるんだから!」


 美しいというよりはまだ可愛らしいという顔立ち。年頃の男子なら声をかけられただけで嬉しいだろう。ただ現在は切迫した状況ゆえ、風圧で顔がちょっとぺしゃんこになっている。

 少女とは幼馴染で、これまでにもっと恥ずかしいような姿も見てきた。着飾って座っていれば「楚々そそとした」と形容されるであろう素地なのに、何だか本人はギリギリの状態に追い込まれがちな女の子。だけど、必死な時の彼女の表情は嫌いじゃない。


「アスミ、前に使ってた『風』の技で電線を切れ」


 少女の名を呼び、状況を打開する閃きを伝える。線路に沿って並ぶ電柱を指さしながら。


「『風』? 『火』が効かなかったのはさっき見たでしょ? このデカブツを止めるには、もっと大出力じゃないと」


 アスミは自然を操る能力を持っている。ただ、ゼロから生み出すことはできない。その場に自然がないといけない。マッチの火から生み出した火炎攻撃は、既にマンモスの硬い皮膚の前に敗れ去っていた。


「あとは、文明パワーを使ってくれ」


 アスミはハっとして、作戦を得心したようだった。


「少し時間がかかるわ」

「俺が稼ぐ」

「ムっちゃんの制限時間も切れてるのに? 危険だわ」

「守るんだろ?」


 このままマンモスが俺らの生まれ育った街――エス市の駅にまで到達すると、一般市民達に大被害が出る状況だ。それまでに、決着をつけないとならない。アスミは一般的な同年代に比べても、とてもこの街と街の人達を愛している。ジョーはアスミがどうしてそういう想いに至ったのかまだ知らないけれど、そんな彼女の心意気は大事だと思った。だから、正直自信はないけれど、勝算がありそうな態度をしてみせる。


「分かった。信じるっ」


 アスミはおでこをコツンとジョーの肩に当てて気持ちを伝えると、自分のやるべきことをやるために、軽業師のようにマンモスの背中を前転して宙に向って飛んだ。見られてもさして気にしないというように、スカートをはためかせながら。

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