275/彼方の大楼閣

 全ては無意味で。


 誰も助けることはできない。それが最初から自明だったというように。


 万物を飲み込む『破滅概念』が、宇宙の果てから大津波となって押し寄せてくる。



――しかし。



 ユイリィ・ネクロス・ヴァルケニオン・デビルの「絶望の演説」を聞いてなお、膝を折らない自分ジョーという人間が、いる。


 不思議だ。恐れは、ない。


 崩れる宇宙の片隅に、ゆらめく蜃気楼が。


 ジョーには、見えているから。


 オーロラのような。


 皆にも、見えているって、知ってるから。



――あれは、何だろう。



 破滅の中で咲くでなく、輝くでなく、霞んでいるあり方は、どこかで少年めいていて。


「なるほど」


 幻のような。



――ああ、そうか。


「敵である、オマエの言葉に教えられるなんて。母さんによく言われていたけど、他人の意見に耳を傾けておこうっていうのは、本当だな」


 美しいような。



――何だ、俺にもあったのか。



「俺って、こういうことがしたい、人間だったんだ」


 敗北者でも。


 幸せじゃない者でも。


 たとえ虚構に過ぎない者だとしてさえも。


 持っているもの。


 本質。


 オーロラにのった風が、犠牲の大巨神一体一体に合わせるように、万華鏡状に、大構築物を連続展開させていく。


 その様子は、どこか静心しずごころを携えていて。美しくて。


 幾百。幾千。幾万。数え切れないほどに、大宇宙に咲き乱れていく。


 突如宇宙に現れたソレは、本質能力エッセンテティアによって建造されたものである。


 これほどの極大出力を確立するにあたり、今日、「この世全ての犠牲ネクロス」に立ち向かった者たちの中で使用者の候補は二人いる。


 「転回ケーレ」を持つ宮澤アスミと、「万象連続存在」である夢守永遠だ。


 しかし宮澤アスミと夢守永遠はここにはいない。彼女たちの本質能力エッセンテティアではない。


 では、誰の本質能力エッセンテティアだというのか。


 決まっている。


 宮澤ジョーのだ。


 つまり、祖父、宮澤新和から受け継いだ「構築物コンストラクテッド・歴史図書館ヒストリア」とは別の、彼個人の本質に根ざした能力だ。


 煌くオーロラを背に、影一つ。少年は立ち上がった。


 かつて少年が追いかけた落ちた星の類の存在に、今こそ名前を与えよう。


 万華鏡状の大構築物が、絶望の宇宙に「ゆうゆうさ」を伝播させていく。



――大丈夫だよ。絶対に!



 一つの「居場所」で足りないというのなら、「居場所」をどこまでも、生み出され続ける「犠牲」に追いつけるまで、彼方の彼方まで作ってやればイイ。


 これが、善性/余裕を無限に「模造」する、宮澤ジョー固有の本質能力エッセンテティア。――名づけて。


 ジョーは叫んだ。


「『グランド楼閣・シュライン』!」


 その時、オントロジカとオントレンマの光が、チラついた。


 生まれた。


 発火した。


 縁起と合理は相互に貫入し合い、曼荼羅マンダラとなった。


 現れたりし大楼閣の力のリソースは、あえて呼称するなら、オントロジカトレンマ!


 「祝吉屋」という、「犠牲」がもう一度立ち上がれるまでの「居場所」が。


 「祝吉屋」という一つの「既存」から、那由多なゆたの「模造」へと、「連続再生産」されていく。


 今、宮澤ジョーという人間と「世界」は一致した。


 これが、宮澤ジョーの本懐だ。言明は、しておこう。


 想い、響くようなら天地てんち万象ばんしょうを駆けろ。


 打ち捨てられた機構物の欠片カケラ一つまで、喜びに満ち満ちさせていきそうな勢いでジョーは宣言した。


「俺はこの宇宙に、全員分の居場所をつくる!」

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