274/一つの詩を二つの言葉で
暗黒大巨神が「祝吉屋」に入ると、球体世界の下半分である「
おそらく「
「さっきの『
崩れ落ちる夢守永遠を。アンナを陽毬が抱きとめる。
「アスミさんは、理華さんとアンナを抱えて脱出を。今のあなたの能力なら、この『境界域』が崩壊する前に、宇宙へは無理でも、もといた『S市』に逃れることができるでしょう。二人とも、私の大事な人です」
「陽毬さんは、どうするの?」
「私は、ここまで。元々仮初めの身なれば。兵司から借り受けた現界のためのオントロジカも尽きた今、ここまでです。ですが、それは私、宮澤陽毬の話で、
あなた達が『なかったことにしない』を選んでくれたから。
彼女はたぶん、世界が『次』へ進んだ証拠」
――願いを叶えるために。
「アスミさん、どうか詠じてください。私が日本語を、あなたが
アスミは納得した。
そうだね。
世界が終わる今だからこそ、言葉を踊らせよう。
陽毬とアスミ、二つの存在、二つの言葉で、「詩」が場に響き始める。
――『非幸福者同盟~少女のケニング』 | -The alliance of unhappiness, and a Kenning of a girl-
――右手に橋を。 | A bridge on the right hand.
――左手に塔を。 | A tower on the left hand.
――胸には祠。 | A shrine in my heart.
――私を作っていたのは、なぁに? | What am I constructed with?
――それは和の場所で百色に揺らぎ続ける花雪。 | That is a beautiful snow flower swinging with various colors in the place of harmony.
――あるいは虚無の中で補い合い続ける暗闇と星アカリ。 | And the darkness and twinkle supporting each other in the inanity.
――そう、私を作っていたのは、この世界が何度巡っても途切れない。とっても綺麗な
――そんな私は誰を待っているの? | Whom am I waiting for?
――誰かを待っている。 | I am waiting for someone.
――何処で待っているの? | Where am I waiting for someone.
――分かってる。分かってる。待ってる場所は分かってる。 | I see, I see I am knowing the place where I am waiting for someone.
――西のマリアと東のソフィアが手を繋げる場所で待ち合わせ。 | I am waiting for someone in the place west Maria and east Sophia shake hands each other.
――いずれその場所を訪れる、君の名前は。君の名前はなぁに? | What is your name? You, who will visit the place someday.
――知っている。知っている。君の名前は、「同盟」の名前。 | I know, I know your name. That is the name of the alliance.
――さあ伝えよう。伝えよう。その「同盟」の名前を伝えよう。 | I tell you, tell you, the name of the alliance.
――静かに伝えよう。その「同盟」の名前は――。 | I tell you calmly, the name of the alliance is...
――――『非幸福者同盟』。 | "The alliance of the unhappiness".
――待っている。待っている。返ってこないかもしれない返事を待っている。 | I am waiting, waiting, the reply that may not reach me.
――信じてる。信じてる。この、幸せで幸せじゃない「繋がり」を信じてる。 | I believe, believe, the band that come from happiness and unhappiness.
――ああ、やっぱり今日も。輝いた「日常」のレコードが回っている。 | Yes, An shining record of an usual day turns today.
――愛してる。愛してる。私が愛しているのはなぁに? | I love. I love. What do I love?
――分かってる。分かってる。私が愛しているものは――。
| I see, I see the thing I love is...
――響いてる。響いてる。この世界に今日も「言葉」が、響いてる。 | Chiming. Chiming. Language is chiming in the world today.
言葉が交わり、世界が輝くと。
宮澤陽毬の身体から、光が飛び立っていった。
「これで私と二重に存在していた彼女に、許可がおりたのだと思います。
この世界が破滅するかという間際において、なお、生まれるものがある。紅の彗星よ、生まれたその血潮を、閉ざさないように。どうか、思うがままに生きて」
失った半身は、同時に全てでもあったというように、陽毬が淡い光を放ち始めた。
「エッフェル塔さんに遅れましたが、私も、ここまで。アスミさん、最後に抱きしめても、イイですか」
アスミはそっと陽毬の胸に顔をうずめる。
陽毬は、アスミの肩を優しく抱きしめる。
二人の関係は複雑で、よくは分からないけれど。
「ひいお
とアスミは伝えた。
「アスミさんも、ごきげんよう。縁があったら、いつかどこかで」
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