273/絶望の世界

 眼前に現れた悪魔は大きく口を開けると殲滅火炎を吐き出した。


 のたうつ巨竜のごとき灼熱の炎が、戦艦陸奥・朧に吹き荒れるが。


 ジョーは、まだ無事だった。


 ジョーを焼き切るだけの炎を前に、ヴォーちゃんが飛び出し、身をていしてジョーを守ったのだ。


 大気圏を抜ける能力を持つ存在。炎には耐性があるのだが。


 火炎の一射目を耐えた時点で、ヴォーちゃんはボロボロになって倒れ伏した。


 焼け焦げたサラファンを纏う少女を悪魔は轟然と見下ろして。


「何が代案だ。宮澤新和の孫よ、貴様は全てが間違っている。あれを見ろ。


 貴様が封印を解いたことで、呼び寄せ始めたんだ。


 墓地ネクロポリスにすら入れなかった、この星の始まりから続く、無名の『犠牲』たちを」


 大宇宙の彼方より押し寄せてくる、暗黒の大津波。


 その大きな暗黒は、幾千、幾万の暗黒大巨神によって成立している。地球が飲み込まれるのに十分な。宇宙が飲み込まれるのに十分な。――「犠牲」の大行進であった。


 ユイリィ・ネクロス・ヴァルケニオン・デビルが「ジョーの代案」の綻びを指摘すると、拠り所を失ったように、宇宙が崩壊をはじめた。


 倒れ伏したヴォーちゃんが零す。


「ジョー。『祝吉屋』のリソースでは、あの『犠牲』の大津波をさばき切ることは、できません」


 宇宙の彼方から、「この世全ての犠牲ネクロス」の大津波が押し寄せてくる。


「『避難所』、これまでの世界でも、考えたものはいただろう。だが、現行世界はどうだった? 『避難所』に入れなかった人間がいなかったとでも、オマエは言うのか? 全員分の『避難所』が、世界にあったか?


 人類は、『犠牲』を出しすぎたのだ。


 温泉旅館一つで、救うことなどできない。


 この世界に全員分の船はない。『犠牲』は生まれ続ける。それが、この世界の結論だ。さあ、破滅だ。『犠牲』を極限まで『拡大』して、全てを覆ってやる!」

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