267/藤の光

 加速上昇する戦艦陸奥・朧の向かう先には、巨大な光が待ち構えている。


 大王が生成した、「S市」を、東北の地を焼き払う光――「トウルース・オン・ザ・カタストロフ」――オントロジカル・バーストである。


 大王は三角締めされた状態のまま、暴力的に立ち上がり、首に足をからめるジョーに手を伸ばした。


 危険を察知し、ジョーも三角締めの体勢を解いて、間合いをとる。


「『カミカゼ』、か。亡霊の戦艦による特攻で、我が『第三本質能力エッセンテティア』を破砕しようなどと。本当に、くだらない国だ」


 なるほど。ここでジョーは戦艦陸奥・朧の破砕と共にヴァルケニオンと「トウルース・オン・ザ・カタストロフ」を打倒し、世界に平和が戻る。俺は、尊い犠牲と讃えられる、そんな心性もあり得るのか。


 だが。


「俺が生まれてくる前に、この国はあんたの国と戦争をやってひどく負けたらしい。その頃は、特攻で犠牲になった人間や、そんな人を待たねばならない悲しい人もいたらしい。だが、今は二十一世紀だ。俺は特攻は、しない」

「貴様の行為、自滅でなければ何だというのだ」

「ヴァルケニオン、お前の能力は、地球で最強の能力だ」

「我、この星を掌握せし者である。この星を……」


 ヴァルケニオンは、ジョーの言い回しの含意に気づいて目を見開いた。


「この星の外に出たら、どうなるんだ?」


 行くぜ! 次の世界ネクストワールド


 宮澤ジョー、未だ己の色を知らず。されど、彼には信じるに足る、祖父から受け継いだ紫色――否、藤色の光があった。


 彼女の名前を叫んだ。


「力を貸してくれ。ヴォストーク1号ッッ!」


 この天と地の狭間で。


 綺麗な藤が舞う光は、船頭に現れた。


 現れるはずではなかった者が、現れる。――光輝く紫の立体魔法陣から、出現したるは物語せかいの終わりに現れる者である。


 流れる紫の髪は流麗に。


 今では境界を越えた彼女の精神性を、サラファンという民族衣裳の様式モードに乗せて、くるくるとジャンパースカートのごとき衣の最果ては回って。


 胸のリボンに、生まれた気持ちを乗せて触れて。


 顔をあげて、眼光一閃。宿敵と、宿敵を生んだ「世界」へ向けて、凛と目を細める。


「また存在誤謬者か!」

「どうとでも、呼べばよいわ」


 ただ、そう。


「私の存在をあえて名乗るなら」


 自分を解放する者を待ち続けて幾星霜。擦り切れた瞳に今だけは愛嬌を乗せて言ってみる。


「私はヴォーちゃん、通りすがりの宇宙ロケットよ!」


 ヴォーちゃんのドヤ顔と共鳴するように、ここでヴォストーク1号の最終段階を解放。


 境界を超えて星の外――「宇宙」。そこはもう別の「世界」だから。


 彼女の最終能力をもって、戦場となる「世界」を変更して大王の能力を無効化する。


 ジョーとヴォーちゃんは声を重ねて、作戦の最終段階発動のオーダーを唱えた。


「「『大気圏トゥ・ザ・ネク突破ストワールド』!!」」

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