239/山口県に、ソレはある
宮澤ジョーのひい祖母・宮澤
すると、自分が今目指すべきは大地であると分かってきた。
眼下には、蒼。尊い青色の全体の中に、見慣れた小さな島の群を見つける。列島。「わたし」が生きた場所。
天と地の狭間に至ると、突如周囲が
中心に存在しているのは。
(また、逢いましたね)
巨大な船――戦艦であった。
勇壮なる佇まいに、菊花紋章を掲げるその存在は、同時に大きな破損を負っており、憂いを帯びている。
外敵を撃ち抜かんとする主砲は、今もなお頼もしさをたたえながら。同時に刻まれた破壊の跡は、己の本徒を全うできなかった悔恨を携えている。
(私が生きた国の、私が生きた東北の名を冠したあなた)
――戦艦陸奥。
「待ってて、くれましたか」
頭に、声のようなものが響いてくる。
――(はいな!)
戦艦陸奥が欠けた存在であるなら、宮澤陽毬も欠けた人間である。
陽毬から小さな光の輪が浮かび上がり、戦艦陸奥から大きな輪が浮かび上がり、徐々に二つの輪は関係し合いながら、連関を始める。
「構築物」と「たましい」が、相補い合い始めたのだ。
(そうでしたね、再びの常世へと向かう時。私はあなたで、あなたは私でした)
やがて、宇宙の
日本国の特徴を形容するなら、「山がち」であり、「島国」であった。
そんな、空と、山と、海の、交差する地点に立体魔法陣は現れた。中から現れたるは。
漆黒の髪を流して。黒い
アスファルトで舗装された地面に、着地音が響く。
今。再び現世に降り立った彼女は、構築物・戦艦陸奥と「たましい」を持つ宮澤陽毬とが同時に補い合いながら存在する、「二重存在」である。あえて言うなら、戦艦陸奥とも宮澤陽毬とも同時に呼ぶことはできないので。アバウトに。
「ムっちゃん」
陸奥はそう呼んでくれた少女のことを想い、空を見上げた。暗い。時刻は、丑三つ時であった。
現在の陸奥は、「
(ジョーさん、アスミさん)
この「電池方式」で、現界可能な残り時間は。
(あと四日ほど)
今日は、八月十六日である。アスミの誕生日まで。
愛した郷里の風景を、人を、歴史を、オントロジカを収奪しようとする男。愛した息子、宮澤新和を殺した仇でもある男。真実大王ヴァルケニオンの時間凍結が解かれる八月二十日まで。あと四日。
(ギリギリ、間に合いそうです)
そこで陸奥は、今いる場所の空気が、ちょっといつもと違うことに気がついた。音、香り、肌感覚。何だか、馴染んだ場所とは少し違うような?
どうやら、奇妙な円形の施設の敷地内に自分は降り立ったのだと理解する。この建物は、何だろう。
少し歩くと、建物の正面に回ることができた。入口へと続く道の両脇にはポールが立っており、その中心をてくてくと進むと、エントランスには警備員とおぼしき人物が立っていた。
「もし」
「おやおや。こんな時間に」
ちょっと太っちょの警備員のおじさんは、朗らかな雰囲気である。陸奥はこの世で宮澤陽毬として生きていた頃の記憶。昔、時々TVで観ていた六つ子が主人公のアニメーション作品に出てきた、大きなパンツを履いてるおじさんを思い出した。ちょっと不思議なこととかも、受容してくれそうなホワホワ感がある。
「ここは、S市の、何処でしょう?」
太っちょのおじさんは、ナチュラルに、そして丁寧に応えてくれた。
「S市。何を言ってるのかな? ここは山口県は大島郡周防大島町にある、戦艦陸奥記念館だよ」
理解するのに、少しの時間を要した。
頭に、おじさんの言葉から、陸奥が現在いる場所についての情報が染みこんでくる頃には、おもわず、同アニメーション作品に出てくる出っ歯の男のキャラクターがやっていた、「シェー」のポーズを取っていた。
どうやら、戦艦陸奥としての自分と縁ある場所に、引き寄せられて現界してしまったらしい。山口県って、S市がある東北のM県とは、ほとんど本州の端から端じゃん。
「しぇー」
最終決戦の幕開けまで、あと四日。
果たして、ムっちゃんは、間に合うのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます