218/過去編――一九五一年~特別

 過去編――一九五一年/


 男は五歳にして、自分は他の人間とは異なる事実に気がついた。


 父が闇市から仕入れてきたドストエフスキーを読む。ラジオから流れてくる断片的な情報を元に、現在の世界情勢を読み解く。こういうことが、普通の子供はできないらしい。


 何か自分には、他の人間とは違う特別な人間なりの、宿命があるらしい。


「新和」


 配給所から帰宅した母が自分の名を呼んだので、分厚い本を閉じた。頭の中のスイッチを入れると、彼女の体を覆うように、淡い赤色の光が見える。


 この、人それぞれに光っている色を感じ取るということも、普通の人間にはできないらしい。


 いったい僕は、何のために生まれてきたのだろう?



  /過去編――一九五一年

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