208/八月十三日2~消えた紅い線

 その日は、家に帰る気になれなかった。


 河川敷を下った辺りに、S市中心部の栄えた場所にあるのとは異なる、うらぶれたネットカフェがあるのを知っていた。利用者は主に貧困層である。


 手持ちのお金で数日は過ごせそうで、夜は個室を取った。


 狭い室内に寝転がり、横たわったまま明滅するPCのディスプレイをボーっと見つめる。


 漫画も借りられるし。ネットも繋ぎ放題。注文すれば食事も提供される便利な場所。それでも、ジョーの興味を引くものは一つもなかった。


 瞳を閉じると、空虚になった背骨が。自分自身の身体の芯が気になった。ずっと心強さを感じていた、紅の線はもうそこには存在しない。


(そうか。お別れも言えなかった。陸奥。お前ももう、消えてしまったんだな)


 くったくなく笑う少女だった。時折見せていた、遠い場所からこの街を懐かしむようなまなざしは何を意味していたのだろう。それももう分からない。


 繋がりは築いてもいつか消える。


 暗闇の中に光はない。ジョーは静かに瞳を閉じた。

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