200/凍結の概念
(「お母さん!」)
空瀬アスミは、現実世界で目を覚ました。
感じていた幸福感はそこにはなく、母・空瀬アリカは「欧州へ行って」いて、アスミは迫りくる脅威の前に、自分の命を代償とした特攻をしかけた現実があった。
白い天井が、瞳に映っている。
(生きて、る?)
徐々に、自分が
「目を覚ましてくれて、良かった」
聞き覚えがある声と共にアスミの顏を覗き込んできたのは、
「私、どうなったの?」
「生きてるよ。まだ、ね。胸には穴が空いてしまったけれど」
「痛くないわ」
「私の『
徐々に、現実世界で「まだ」自分が生きていることを理解し始める。理華が使った「
「ジョー君は?」
「無事だよ。前の車両に乗ってる。ここは、
「そう。とうとう、色々話さないとな」
「我々は大白山に向かってる所だ。どちらにしろ、『理想的な人間像』の近くでオントロジカの供給を受けないと、あなたは危ない」
理華の言葉が、何だか遠くに感じられる。一度死んだようなものだし、もうしばらくしたらどうせまた死ぬ運命の自分。そんな自分を、どこか遠くからもう一人の自分が他人事みたいに眺めてる感じ。ただ、理華の助力は行き届いていてありがたかった。友人と呼べるような関係ではなかったけれど、長年互恵的な関係を維持してくれた彼女に、今は感謝の念しかない。
「そうだ。敵は。真実大王は?」
「四号公園で”止まって”いる」
理華は確認するように言った。
「あなたの心臓にあった『氷』と『マグマ』のうち、『氷』とは限定的な
補い合う関係の中でも、アスミは理華に対しても秘匿はあった。しかし、『街を守る』という二人で共有した目的を尊重するために、今はもう全てを理華に話して、後を託さなくてはならない。
「そう。『氷』はね、この街でも冬に
アスミ自身も、大王の能力の前でも有効なのかどうかは賭けであったのだが。
「敵の封印に成功したということ?」
「いいえ。残念ながら解けない氷はないの」
アスミが告げた数字は、ラッキーナンバーから始まり、曜日、福神の数、などなど。意味深なものだった。
「七日間。正確には後七回太陽がこの地に昇り、街を照らしているまでが有効期限。八回目の太陽が昇る時、四号公園の時間の凍結は解けるわ。また、大王は収奪を始めるでしょう。それまでに何ができるか、だわ」
理華は、アスミの手を握って、しばらく車両が揺れるのに身を任せた。
やがて、車両が安定走行に入ると、ポツリと応えた。今日が、八月十二日だから、と前置きした上で。
「八月二十日。ちょうど、アスミさんの誕生日の陽が昇る頃。真実の暴風は再び吹き荒れるわけか」
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