181/魔王来たりて、和の国の少女対峙す(第八話・後編・了)
最新機が発した謎の稲妻が追撃する自衛隊機の一機を焼いた瞬間、残るもう一機が最新機に向かってミサイルを撃ち込んだ。刹那、翼にミサイルを受けた最新機もバランスを失い落下を開始する。
(ヤバい!)
ジョーが気を向けたのは、ここが左右を多くの人々がそれぞれの営みを続けている建造物に囲まれている国道であるという点である。
その時、落下する最新機のコックピットが開き、ぬっと「男」が出てきた。
いかなる原理に基づいているのか。現れた男は跳躍して、たった今ミサイルを放った残る一機の自衛隊機に飛び移り、そのままコックピットに向かって正拳突きを撃ち放った。
その威力は、たった今機体が発射したミサイルに比類するかのよう。次の瞬間には再び爆炎が上がり、最後の一機の自衛隊機も落下を開始した。
◇◇◇
空中戦の終劇は、地獄の始まりだった。
落下する自衛隊機一機は、国道沿いのショッピングモール上部を直撃、場を爆炎に包んだ。
謎の最新機は高層マンションの中核に突撃。高層建造物は、その中ほどを倒壊させた。
最後の一機の自衛隊機は、ジョー達が向かう先の国道の中心にそのまま落下。周囲に大火炎を振りまいた。
「助けにいかなきゃ!」
目の前の光景は、明らかに何人もの人間が死んだことを意味していた。それでも、まだ救える命もあるはずだ。この二年半、救急救命の知識は、ジョーを始めこの都市の様々な人間が学んできたことだった。
走行中のジープの窓から飛び出していこうとするジョーの腕を、ギュッと理華が掴んだ。
「待て」
「何言ってんだ」
「この街の医療と消防と防災を信じろっ!」
根本的に冷静で理知的な女だと思っていた理華が激昂していた。
「祝韻旋律も、救助人員を総動員する。それよりも」
ジープが停車すると、眼前には、炎上する自衛隊機の上で
「あの男を何とかしない限り、被害は広がり続ける。この街であの男と戦えるのは、君たち三人だけなんだ」
懇願に似た理華の言葉を受け取ったジョーは、歯を食いしばって、ジープのドアを開き、地上に降り立った。
「男」は、吸血するように自衛官の首筋からその人間のオントロジカを吸い上げると、ゴミを捨てるように自衛官の体を捨棄した。
「ドゥルルッ! ドゥルルッ! なるほど。エルヘンカディアの報告にあった通りだ。この地のオントロジカは質がイイっ」
獅子を連想させる黄金の髪をワイルドに乱した「男」は、歳の頃、三十前後。肉体は筋肉が隆起し、研ぎ澄まされ、無駄なく絶頂に至っている。およそ、人間の男性が理想とするような身体。そして美貌。衣服は軍服であったが、世界中にその軍服を採用している国家はない。所属や背負っている思想を示す徽章の類はなく、ただ、風と揺らぐ炎の中、その凝固した存在のみで「己」を語っていた。例えるなら、「自分」という国家・軍隊。
対峙したジョーは、左手を構えて
「人を殺しても、何とも思わない人間!」
「男」は眼前に現れた少年を一瞥すると、こう返した。
「そういうお前は、余裕がある世界で生きてきた人間か。召喚士の小僧!」
「男」は炎に包まれて崩れ落ちていく自衛隊機という構築物から、ゆっくりとジョーに向かって歩みながら、その存在を告げる。
「
大王から、無尽蔵の存在変動律が爆発する。色は、黄緑色であった。
大王から発せられる大風に抗うように、ジョーが左手を振り抜くと、ジョーを守るように眼前に紫の立体魔法陣が現れる。中から出現したるは、この国の古の大戦艦、陸奥である。
ジョーが発した存在変動律を身体で受け止めると、大王は歩みを止めて、両足で大地を噛んだ。
「その紫の存在変動律。小僧貴様! 我が
運命が回り始め、少年は過酷な世界へと投げ出される。
大王の言動に返答したのは、ジョーではなく、紅の和装を纏いて、この国の受け継がれた女性像を写像したような黒髪を地獄の風になびかせた小柄な少女、陸奥だった。
「そういうあなたは、『わたし』の愛しき
あくまでジョー個人にとってというような主観的な意味なのか。あるいは、人類という種の存立といった客体的な意味なのか。
この時点でジョー本人も知らなかった事柄を一つ。
今日は二○十三年・八月十二日。
/第八話「夢星」・後編・了
第九話へ続く
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