93/名作ゲームとバナナ

 ジョーはひい祖父のアパートに辿り着くと、しどろもどろで説明を始めた。オントロジカのことを具体的に語れないため、行き届かない説明だったが、要点は一つ、日付が変わってしばらくの頃まで、ひい祖父にカレンとアンナお祖母ちゃんをみていてほしいということだ。


「いいぞい」


 ひぃじーじは、不思議なことに細かい追及をせずに快諾してくれた。ジョーが急いでいるらしいことも察してか、起動していたスマートフォンゲームをオフにし、さっそく外出用の服に着替えはじめる。


「何か、持っていくもの、あるかのう?」


 ジョーはしばし思案する。身体が弱ってる時は栄養を採って寝てるに限るとするならば、何か食べるものが思いつくが、カレンの症状は体の衰弱もさることながら、精神の衰弱のように思われた。また、食糧についてはマンションの九階にストックがあるし、ひい祖父は自分で調理もできる人だった。


「じゃあ、ゲームで」


 いかなる思考過程を経たものか分からないが、ジョーなりにカレンのことを思いやるに、この結論は馴染むものでもあった。


「最近のソーシャル的なやつじゃなくて、カレンが昔やってたようなやつ。あと、何か頭使わないで、淡々とやれるやつ。悪いんだけどひぃじーじ、日付変わるまでカレンとゲームやっててよ」


 引き続き、ひい祖父は特にジョーに深い事情を何も問わなかった。ただ返答として、だったらあのゲームはどうかな、あんなゲームもいいかもなと、カレンのみならずジョーもプレイ経験がある名作ゲームの名称をいくつかあげてよこす。最新のゲーム機自体はカレンも所有しているのだが、幼少時にジョーやカレンがやっていたゲームからは、現在はハードが二世代ほど進化していた。ひい祖父は、おさがりに貰って棚に並べてあったそれらの旧機種とソフトを、見繕ってリュックサックに入れていく。


「あと、バナナとかどう?」

「じゃあ、それも」


 テーブルの上にあったバナナ一房もおもむろにリュックに入れるひい祖父を見ながら、とりあえず頷いてみる。


 カレン、バナナ食べて、淡々とゲームでもやってて。気が付いたら時間が経っていたって間に、全部終わらせておくから、と。

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