92/昔日の男の子
ジョーが立ち去った後、志麻は状況説明を続け、現在の状況をアスミと共有する。
「そう、カレンさんが」
アスミは腕を組んだまま、どうやら志麻としては先日の夜の会合で初めて会った、ジョーの姉のカレンに想いを馳せているらしい。
「どうかしたの?」
単純に敵の能力による被害者に想いを寄せているというよりは、何か個人的な感傷を挟む雰囲気をアスミから感じたので、志麻は尋ねた。
「うん。敵の攻略とは直接関係ない話でゴメンね。ちょっと昔のこと思い出して」
その口ぶりだと、アスミは志麻の知らない過去の時間に、ジョーの姉のカレンとも会ったことがあるらしい。
「カレンさんが小学校の六年生で、私とジョー君が二年生の時だったかな。カレンさんが髪の色を同級生の男子にからかわれて。ちょっと行き過ぎたっていうか、髪を引っ張られたり、叩かれたりしちゃったことがあってね」
この地の守人として、アスミと志麻が引き合わせられたのはもう少し後のことであった。その幼少時の頃のアスミの話を志麻は知らない。
「その時、ジョー君が
「ううん。宮澤君がお姉さんを大事に想ってるって話でしょ。今も、敵の能力でお姉さんが衰弱してるなら、助けるために宮澤君は戦うだろうっていう」
アスミはちょっとボーっとして、どこか遠い昔を思い出しているようだった。
「その後、ジョー君と疎遠になってしばらくして、柔道で全国大会に出たっていう新聞記事を見かけて。少し分かったっていうか。ジョー君、強くなりたかったのかなって、思ったんだけどね」
そこまで述懐した後、アスミは表情を緊迫したものに戻し、改めて午前零時の再戦に関する見解を述べ始めた。
「つまり志麻の見解だと、
志麻は首肯する。
「それって対策は二つしかなくて、一つは相手を上回る物量をこちらも用意すること。もう一つは物量の差をひっくり返すような『逆襲の一手』を仕掛けること。残念ながら、前者は午前零時までにこれ以上の物量を私達が用意するなんて不可能よね。となると、後者で対抗するしかない」
まるで数学の問題を淡々と解き進めるように現在の状況を分析し、解答は一つに決まるというように話すアスミに、志麻は心臓を掴まれたような感覚を覚える。おそらく、アスミが出そうとしている解答は、志麻にとって好ましくないものである。
「どうするつもり?」
アスミは、自明のこととして、その結論に至るというように応えた。
「幸いなことに今宵は満月。『ハニヤ』を使うわ」
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