86/伝えかけの助言
一方その頃。天魔の一撃で片膝の状態になるまで崩されたジョーは、かろうじて立ち上がったが、既に平衡感覚がおかしくなっていた。再び構えを取るが、その構えは最早、組技にいくために相手を絡め取るためのものではなく、無意識に敵のパンチをガードするためのものになっていた。
しかし、上段に上がった両腕の隙間を縫って、二発、三発目と天魔のジャブが撃ち込まれてくる。脳が揺れ、視界が、意識が、混濁する。
さらに天魔は踏み込むと、続いて左のボディブローをジョーの
このまま、天魔の返しの右の撃ち下しでこの闘いは終わる状況であった。
「副砲の十六!」
しかし、そこに遠方から少女の声が割り込んでくる。天魔は、飛来する強いエネルギーを纏った球体を察知し、ジョーにトドメを刺すのを一旦思いとどまり、バックステップで距離を取る。二人の間を陸奥が放った赤雷が通り過ぎたのは、一呼吸ばかり後であった。
「む……陸奥」
ぐらつく意識で、渾身の援護をくれた少女を見やるジョーであったが、状況はさらに悪かった。紫色の立体魔法陣が陸奥の後方に出現し、まさに陸奥と同化しようとしていた。
「ほわぁっ。まだ十六なのに!」
焦りを携えた陸奥の表情も、ジョーの意識の中では既に遠い。これはまずい。スポーツと実戦とで違いはあるものの、これはジョーの蓄積された勘では負け戦だった。
立体魔法陣が収束する間際、陸奥は残された時間で精一杯の何かを伝えるようとしていた。
「ジョーさん、燃料が無くなりそうな時は……っ」
最後まで言葉が伝えられぬまま、陸奥は立体魔法陣に飲み込まれる。
既に力が入らない身体。目の前には天魔という強者。周囲には無数の生物群。
陸奥を次に呼び出せるのは日付が変わってからである。
天魔は陸奥という驚異が去ったのを冷静に確認すると一歩ジョーに近づき。周囲を舞う生物群は、捕食を開始するように徐々にジョーへの距離を詰め始めていた。
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