37/身体
ジョーの自宅のマンションから徒歩で20分ほどの位置にあるN町駅近辺は、最近地域復興を兼ねた再開発が行われている。レストラン街にスポーツ施設など、既にいくつかの人が集う場所が集積しつつ、今後も病院、ショッピングモールなどが建設されていくらしい。
夕方、そんな再開発地域の噴水の前をアスミとの待ち合わせ場所に指定されていたので、ジョーは歩いてやってきた。
既に来ていたアスミは、早朝とは違ったチェックのスカートに襟付きブラウス。藍色のリボン、という服装をしている。背後の噴水が涼しさを感じさせるのもあるだろうか。全体的に清涼な雰囲気がある。
「なるほど、満喫していたのね」
日中、陸奥とどのように過ごしていたかを伝えたら、そう返された。特に非難しているというよりは、ただ感想を述べたというように。
「じゃあ、改めて。もう一人の守人の名前は山川志麻。彼女の家、
「大天寺山? あの上って、お寺とかあるんじゃなかったっけ」
長い石段と、登るとS市の象徴にもなっている三本の電波塔の麓につくのが有名な、市民にとっては馴染がある場所だった。
「そ。そのお寺がもう一つの守人の山川家よ。志麻はそこの一人娘。色々あって、本質能力を持っててこちら側の活動をしてるのは、今では志麻だけなんだけどね」
アスミが歩き始めたので、後をついていく。昨晩の牛人のような存在と、これから共に戦っていくことになるかもしれない相手である。ジョーとしても、その山川志麻という人物については気になる所なのだった。
国道に繋がる商店街をアスミと並んで歩いて行く。夕闇が降り始める時間で、ちょうど街の街灯がポツポツと点灯していく所だった。様々な人々が目につくが、時勢だろうか、夕飯の準備のために外に出てきたお年寄りの姿が目につく。
「私もジョー君もさ、ちょっと自分は幸せじゃないって思ってるフシ、あるわよね?」
アスミがそんなことを語りかけてくる。
「まあ、超ハッピーで充実してますって感じではないな」
自分自身の、敗北して柔道を辞めて以来の鬱屈とした気持ち。昨日、死んだ目で自分を欠陥商品と呼んだアスミの気持ち。幸せな気持ちとは言い難いかもしれない。
「でもね、思ってることと現実のことって違うわよね。志麻って子は、何ていうか」
難しい子だから、ちょっと気をつけてねなどと言いながら、アスミは志麻という少女に関する情報を伝えてくる。彼女は眼前を睨みつけていて、その真意は読めない。
「彼女、手首に古傷があるのよ」
ジョーはその言葉の含みに気づいて、心に帳が落ちてきた。何だか、自分の手首にもそんな古傷があるかのように感じられたりもして。
薄闇に包まれる街に灯る儚い街灯の明り。道行くお年寄り達も一人暮らしが多かったりで。なんだか沢山の人達を照らすには心もとない。満ち足りる、ということがどうしても遠い。そんな気持ちを抱きながら、ジョーはその後、無言でアスミと並んで歩いていた。
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