Life

七彩聖夜

序章-人造-

「敵までの距離...シド。どれくらい?」

 俺は地面に指で地図を描く。青く澄んだ空の太陽が、まぶしく照りつける。

「ざっと500m。正確には501.36m。こっちには気づいていないみたいだな。でも、気づかれたら47秒でこっちに来るな。」

 ヘッドフォンをおさえながら、シドは静かに言う。メガネの奥の目が地面の地図を真剣に見つめる。

「よし、ライカ。300mくらい先に細長いつるを、低く張ってくれ。」

「おっけー。シド君300mの距離教えてー。」

 ライカが走りつつこちらを見る。少し行った所で隣のシドが手を挙げる。それをみたライカが、地面に手を当てその手を回す。ライカの下からつるが小さく生えてくる。

「これでいい?」

 帰ってきたライカが、手を払いながら言う。

「あぁ、十分だ。次に...あれ?スイは?」

「ここ。」

 ペットボトルの中の水...いや、スイが声を上げる。キャップをあけて、ゆっくりと中身をこぼす。こぼした水は、下の方からゆっくりと人の形へと変わる。

「よし、スイ。お前にはシドと二人で...俺を守ってもらう。」

「は?」

「阿呆。」

 二人の本気のトーンが少し心に刺さる。少しふざけただけのつもりだったのだが...。

「ごめん、ふざけた。とりあえず、目的地までの道にいる敵の排除。」

 無言でうなずくスイ。さて、最後の一人に命令を下さねば...。

「フウ!起きろー!」

「んー、眠い...。何~僕何すればいいの?」

 獣の耳のようなものがついている、少女のような容姿をしたこの“少年”。無野風。

「んー、とりあえずお前は適当に突っ込んで行け。」

「え?!なんか僕だけ雑じゃない?ねぇ、ルー君?ルー君ってば!」

 フウは俺の肩をつかみぐらぐらと揺らす。目が回る。本人は、そこまで力を入れていないつもりなのだろうが、俺の頭は相当に揺れている。

「やめろー、脳が揺れるー。気持ち悪い、吐く。...フウみたいな馬鹿になるー。」

「う...ふ、フウ馬鹿じゃないー!」

 心無い言葉に傷ついたのかフウが拗ねはじめる。頬をふくらませてそっぽを向く。これが女の子なら素直にかわいいと思えるのだろうが、男だと思うと変な世界への扉を開きそうになって怖い。

「あ!フウちゃん泣かしちゃダメじゃん!ルオ君最っ低!」

 ライカがフウのそばへ駆け寄り肩を抱く。

「フウ、大丈夫。戦いの場で全員の足を引っ張るような、アホの言う事なんて気にするな。」

 スイがフウの頭をポンポンと撫でながら俺を見て、ニヤついている。何がそんなに面白いのやら....。この状況では、どうも俺の勝ち目はないのでシドに目で助けを求める。

「ほら、その辺にしとけよ。ルオが泣くだろ。」

「え?!」

 シドの言葉に驚く。いや、そういう助けを求めたんじゃない。それに泣かねぇし。

「そうだね、ルー君泣き虫さんだもんね!」

 さっきまでメソメソと泣いていたフウが、シドの言葉を聞き俺の事をバカにしたように見る。調子のいい奴だ。

「そうか、ルオ君泣き虫だったっけ。」

「は?!なわけ...。」

「そうだな、そろそろルオが泣きそうだからやめるか。」

 フウの言葉に続きライカとスイまでもが、冷やかす。我慢が出来ず声を上げる。

「ちょっと!あ...。」

 大声を上げて立ち上がった俺は我に返る。がれきの後ろから大声を上げてたった俺の方を敵が一斉に見る。驚くぐらいに馬鹿げた失態。なにやってんだ。

 パンっパンっ

 銃声とともに敵の大群が一斉にこちらへ向かってくる。神様、もしそこにいるなら助けてください。いや、割と本気で...。目の前の地獄絵図を消してくれ。

「と、とりあえずフウとスイは行って。おい、ルオ起きろ!ライカは防衛もお願いするけど、できるなら戦ってくれ。」

「りょうかい~!」

「おう。」

「はーい。」

 放心状態の俺に代わってシドが全体の指揮をとる。俺も形だけで銃を構える。

 ―――今日もまたいつも通り。

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