第34話 相談相手

 ワタナベさんはきっと、色々なことを感じ、深く考えた上で、「はっきりしなくていい」と言ったのだろう。


 具体的に何がとは言わなかったけど、僕の動きを制するにはよくできた言葉だった。


 少なくともその言葉で、僕は自分が何をしようとしているか、改めて考えることとなった。


 考えてみると、「ミオさんとうまくいかなさそうだから付き合って、ミオさんと付き合えるかもしれないからに別れる」なんて言うまでもなく、ひどい話だ。


 なんとも自分が汚らわしい気持ちになり、僕は何が正しいのかよく分からなくなっていた。



 職場でミツハシさんから、

「どうですか?シオリとは。順調ですか?」と笑顔で聞かれた。


 特別な意図はなく、無邪気に聞いてきた感じだったので、

「うん。この間は紅葉見に行ってきた」と笑顔で返した。


「いいですね〜。付き合い始めの今が1番楽しいですよね」とミツハシさんは楽しそうに言った。


「私と彼氏とかもう付き合いが長いからそんなトキメキが最近なくて、最初はすごく大切にしてくれたのに…」といつものミツハシさんの話が続く中、僕は

「そっか。今が一番楽しい時期なのか」と頭の中で独り言を言っていた。そして何かが違うと感じていた。



 確かにドラマや漫画では、付き合いはじめはみんなドキドキしながら初々しい。すごくキラキラしている。それが青春だと言わんばかりに。


 でも、どうしてだろう。僕の気持ちはずっとモヤモヤ、ドロドロしてる。


 恋愛を宝石のようなものと聞いていたのに、今の僕にとっては苦悩そのものだ。一体どこにキラキラした要素があるのだろう。


 そう。考えれば考えるほど、今の僕とワタナベさんの関係は恋愛とは遠いものに思える。


 その一方でミオさんへの想いはどうだろうか。


 ミオさんのことを考えるといてもたってもいられなくて、切ない気持ちになってしまう。でも切なくなってもミオさんのことを考えている自分の方が幸せな気がする。


 でも、ミオさんへの想いでさえも聞いていた「恋愛」とは別のものだと思える。キャッチフレーズをつけるなら「悩みの泥沼」辺りがちょうどいいかもしれない。



 …最近いつもこんなふうに考えがまとまらず、あちらこちらへ支離滅裂になってしまう。


 僕は形のないモヤモヤをもてあましていた。このモヤモヤはどうしたらいいのだろうか。



 夜に家でふと思いつき、手当たり次第インターネットで検索してみた。

 

 もちろんそのまま自分に当てはまる都合のいい回答なんてどこにもなかった。


 探し方が悪かったのか、自分の不倫を正当化しようとQAサイトで延々と自己主張して、叩かれまくっている人の書き込みを見かけた。


 今の自分もこんな感じで自分を正当化しようとしているのかもしれないと思って、少し胸がざらっと冷たくなった。



 探していたような答えは見つからなかったけど、インターネットで検索している中で気になる言葉があった。「一人で行き詰った時は誰かに相談したらいい」というものだ。


 僕がもっと周りに相談する人なら、あの角でたまたま歩いていたミオさんに告白するなんて、今考えたら強引で、成功しそうにない行動をとらなくて良かったのかもしれない。


 その代わり、ミオさんにも出会わなかったかもしれないけれど…。


 あの時のミオさんの黒いジャケットから覗いている白いTシャツがかわいかったなあ。

 …なんて気がついたらまたミオさんのことを考えている。


 また散漫な考えになっている自分に気付き、自分がバカじゃないかと思う。


 「思い悩んでいても、何も変わらない。まずは人に相談しよう」と僕は口に出して言った。


 その時、一筋の新しいアイディアが頭に降りてきた。


 相談相手に僕が思いついたのは、あのタナカだった。

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