第22話 白いスカート
駅の東側にある繁華街の中の居酒屋で合コンは始まった。ミツハシさんがみんなの自己紹介とか促してくれてスムーズに始まった。と思う。多分。
男性と女性が向い合せになって座った。席順は右側にミツハシさんとイズミ、真ん中に僕、向かい側は駅で見かけた白いスカートの女の子が座っていた。
白いスカートの女の子の名前はワタナベさんというらしい。そして左側にタナカとショートカットの女性、マシマさんが座った。
ミツハシさんとイズミがスムーズに進めてくれたとはいえ、僕は幾分緊張していたし、タナカに関しては何を考えているのかよく分からないが終始無言だった。
だから途中まではミツハシさんとイズミが振ってくれる話題に僕とワタナベさん、マシマさんが話を聞きながら少し笑い、タナカはその横でじっとりしているという感じだった。そんな感じで一時間が経った。
その一時間は僕にとっては苦痛ではなかったし、お酒も入って悪くない感じだった。でも、終始無言のタナカのことが心配だった。
時間の経過とともに、「このままでは相手の女性にも悪いし、タナカも二度とこういう場に出てこなくなるかも」と僕は少しハラハラと焦っていた。
でも僕自身もなんだか受け答えも何だかふわふわとしてしまっていて、タナカをフォローできるような状況でもなかった。
真ん中にミツハシさんとイズミに座ってもらったら良かったと少し後悔していたら、ワタナベさんと目があって、二人で同時にぺこっとお辞儀した。
考えが通じているわけではないと思うけど、なんとなく心地よい反応だった。ワタナベさんは苦手な人ではないなと思っていた頃だった。
マシマさんが、急にタナカを指さしながら少しおどけて笑いながら言った。
「タナカくんはあれかね。何も喋らないつもりかね」
マシマさんは少し赤くなっていたから酔っていたのだと思うし、気を遣って声をかけてくれたのかもしれない。でも、この行動がタナカのプライドを変に刺激しておかしな行動に出てしまうのではないかと僕はドキッとした。
人付き合いが下手なタナカはプライドがすごく高いのだ。タナカがおかしくなったら僕が止めないと!
「喋ってもいいよ」とタナカはマシマさんに向かって言った。特に笑っていたわけでもないけど、親しい僕にはタナカが意外と機嫌がいいのが分かった。
マシマさんはそんなタナカの言葉に、
「喋ってもいいよって!上から!」と突っ込みながら笑い出した。「気持ちは分かるけどマシマさんもちょっとさすがに失礼なような…」と、僕が思ったのをよそにタナカは続けた。
「じゃあ魔法少女テレサクルサと、スーパー戦隊カグレンジャーと、セントラル高校白書とだったらどの話がいい?」
なんだその選択肢。萌えアニメと戦隊物と昔NHKでやってたアメリカドラマって!と心の中で突っ込みかけた僕をよそに、マシマさんは間髪入れずに答えた。
「じゃあセントラル白書で!」
そこから後はタナカのセントラル白書についてのうんちく話が機関銃のように続いた。終始うんうんいいながら、時々合いの手をマシマさんが入れて奇跡的に会話? のようなものが続いた。何故かうまくいっているような…。
タナカの方に気を取られている時にワタナベさんが何か口にしていたけれど、聞き取れなかったので、何度か聞き返した。
「ごめんなさい。何て言ってたんですか?」
こんな時に話を聞いてないなんて感じが悪いだろうなとすまない気がしていた。
でも、ワタナベさんは微笑みながら、「ごめんなさい。そんな謝らなくてもいいのに」と優しく返してくれた。
「どうしてそこでワタナベさんが謝るの?」
「あれ?本当だ。どうしてだろう」
と僕達は一緒に笑いあった。
僕達は、最近のドラマで盛り上がった。それはミオさんのアドバイスで最近勉強のために見ていたドラマだった。熱血教師のドラマだったので、教師は大変だからやりたくないと意気投合した。
「私、主人公より、ヒロインに振られた友達の方が優しそうで好き」
とワタナベさんは笑いながら言っていた。歯並びのいい口から出る声は、心地よい柔らかさだった。
目が二重なんだなと、なんとなく頭の中でワタナベさんの「好き」を繰り返していたら、しばらくの間ワタナベさんを見つめるような形になってしまった。
「なんか言ってよ」とワタナベさんは少し赤くなりながら、笑顔で手を振り上げる仕草をした。
なんだかふわふわと気持ちのいい時間で、ミオさんと出会う前にあの角で告白しようとした時に付き合いたかったのは、こんな女性だったのかもしれないと思っていた。
予定していた二時間はスムーズに終わった。まあまあ楽しかったけれど、行く前は緊張したので、スムーズという言葉がぴったりだと思う。
店を出たら、
「じゃあ私達こっちだから」とマシマさんが言った。タナカとマシマさんは向かう駅が同じだったので、二人は違う方向に向かった。
残りの四人で今日待ち合わせた駅の方向に向かった。
と言っても、女性二人が前で、僕とイズミがその数歩後ろを歩いていたので、男女別々に歩いていた。「連絡先とか聞いた方がいいんだろうな」と思いながらも、そんなタイミングがなくて、なんとなく駅に向かっていた。
ミツハシさんとワタナベさんはなんか楽しそうにキャッキャッ盛り上がっていた。なんとなく知り合いの女の子が楽しそうにしているのを眺めているのも悪くないなあと思っていた。
そんなことを考えていると、途中でふとワタナベさんの白いスカートがふわりと舞ったように見えた。ワタナベさんが振り返ってこちらに向いて来たのだ。
「連絡先」とややうつむき加減でワタナベさんは、今度も柔らかい声で言った。
「うんっ」
すごく嬉しくて思わず声が変に裏返った。
知らない人と連絡先の交換をする機会があまりないので、手間取った。その後、なんとなく僕は「ごめんね」と言った。
「どうして謝るの」
「ほんとだ、ありがとう」
「どうしてお礼」とまたワタナベさんはクスクスと笑った。
「え、だって嬉しいし」と僕が素直に言ったら、少しワタナベさんは赤くなったような気がする。
その赤さにつられて僕も頭がぽーっとしてきた気がする。
「じゃあ、私達お茶して帰るね」と言って、ワタナベさんはミツハシさんと駅前の百貨店の方に向かって行った。
ワタナベさんは白いスカートをもう一度ふわりとさせて、振り返り、小さくバイバイの手をしてから消えて行った。
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