第19話 何を考えてるんだ
「俺は一体何役で参加するんだ?」
合コンに誘う話を開始してから三十分後にタナカが口にした言葉がこれだった。
結構しっかり説明したつもりで、ようやくタナカが口を開きかけて動きがあったと喜んでいた矢先のことだった。
その言葉から全く何も通じていないことが分かり、僕は大いに落ち込んだ。
僕が言うのも何だけど、普通にちょっとしたイベントへの参加を誘っているだけなのにどうしてこんなに理解してもらえないんだろう。
でも、分かる。普通の日本語として頭にそのまま言葉が入ってこないのだと思う。
「いやいや、何役という話じゃなくてね」とイズミが横から助け舟を出してくれた。
「女の子とお話をする機会に参加して、気に入った子がいれば仲良くなろうって話だよ」
三人でタナカの家でゲームをしている時に唐突に話をしたというのに、それをいい話だと思ってくれたのだろう。
タナカは「う〜ん」と暫く考えてから、「どうして俺が見知らぬ女の子と仲良くならないといけないんだ?」と禅問答のような質問をしてきた。
「仲良い女の子ができたら楽しいからだよ」
「俺は今でも毎日充分楽しいぞ」…分かる。
「そうかもしれないけど、これまで知らなかったような楽しさがあるかもしれないだろ」
「あるかもしれないけど、ないかもしれないだろ? 何となく楽しさがある可能性より、その場の苦痛の方が大きそうだ」…分かる。
「まあ確かに緊張するし、ちょっと最初は辛いかもしれないけど俺も頑張るし」
「タガワが頑張るのはいいよ。だって頑張りたいと思ってんだから。でもどうして俺まで頑張るんだ? そういうのに適役なら他に腐る程いるだろう」…分かる。
確かにタナカの言うことは正論だ。
これがお節介だということも分かっているし、それが余計なお世話だと感じることも充分理解できる。
「でも…タナカが分かっていないこともある!」僕は自信を持ってそう思ったから、力強く言った。
「でも、俺、お前にも幸せになってほしいんだよっ!」
タナカは少し怯んで沈黙した。タナカは僕と話をしている時もいつも目を合わせないので、その時も視線は斜め下のままだった。だから表情は分からなかったが、その沈黙が何かを感じていると思った。
でも、次にタナカが言ったのはこうだった。
「だから俺の幸せと、このイベントに何の関連性があるんだ? 俺にはもう、「もえか姫」という、心に決めた嫁がいるんだ。心を揺らすようなことは言わないでくれ」
俺とイズミは顔を見合わせて、困り果てた。
そうか、俺は一人で寂しいと思ったのが発端だったけど、タナカにはそういう発想自体がなかったのだ。
しかも2次元の嫁がいるから、浮気をしたくないと純粋な思いから言っているとしたら、確かにこちらが悪人のような構図になってしまう。
段々自信が無くなって、僕はもう無理強いをするのを諦めはじめた。
こういうのは意固地になると逆効果だということも知っていた。
でも、その前の僕の熱意でタナカも何か感じることがあったのかもしれない。
最後にタナカはポツリと言った。
「まあそこまで二人がいうなら考えてやってもいいけどな」
タナカからすると、「ちょっと躊躇しながらも、妥協するそぶりも見せてもいいか」という程度の発言だったのかもしれない。ただ、その発言に対してイズミは素早く反応した。
「よし。ありがとう。じゃあ参加決定な」
この時は「イズミすごいな」と思った。よほど僕たちに「彼女早く作ればいいのに」と思っていたのかもしれない。
そのイズミの言葉は全く繋がっていない発言のようにも思えたが、タイミングがあまりに良すぎた。タイミングがいいちょっとした発言で物事の方向性が変わることがある。イズミの言葉は正にそんなタイミングだった。
タナカは「うう」と唸るのが精一杯で、イズミの会心の一撃が決まった。そう言えばイズミはゲームでも難しい大技で大逆転するのが得意だ。
こうして、タナカの合コンの参加は、最後はうやむやのうちに決まった。
さすがはイズミ、こじらせた友達を説得するという面では、人生の先輩である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます