第15話 日常にあった簡単なきっかけ


 映画の時に内容そっちのけでミオさんを見ていたのがばれたのだろうか。


 映画の後はまたさらにミオさんが素っ気なかった。


 でも、仕事が忙しいらしいし、付き合っているわけでもないのに「相手して、相手して」なんて僕でもうっとおしいだろうと思うので、なるべくそんな雰囲気は出さなかった。


 と、表面的には思いながらも何か悪いことしたんじゃないかと悩んでた。自分のどの行動が悪かったのだろうかと何度も思い返した。


 恋愛の経験値がゼロの僕には全く理解できなくて、どうしようもなかった。



 雨が続いて外出しにくい時期だしと、僕は自分への課題としている小説やマンガを読み漁った。でも、課題としているといってもそんな苦痛ではなかった。


 苦痛というよりも楽しんでいた。こういう考え方もあるなあと思ったり、参考になるなあと思ったり。


でも、恋愛ものを見ていると、ついつい自分とミオさんに当てはめて考えてしまうのには困った。


 小説やマンガの主人公や相手の役にやたらと共感できてしまう。

「会いたいなあ」なんて自然と呟いてしまう。


 もう僕はしっかりと恋に落ちていた。

 残念ながら、1人で。そして、勝手に。


 行動しないと何も変わらないからと街でナンパ(のつもりは当時はなかったが)して、そしてその通り恋ができたが、片想いだし。思っていたのと違う。全然違う。


 楽しいのは一瞬で、後はずっと辛いばかりだ。泣きそうだ。


 あの時の僕は両想いになることしか考えてなかったなあと、今更ながらに馬鹿げていた自分に気づいた。


 恋愛は相手と自分の2人でするものなのに、自分のことしか考えてなかった。そんな自分より、今の自分は進歩したと思うけど、だけど今の自分では全く無力だ。




 なんだかんだ、ミオさんに連絡できなくなって、もう3週間が経とうとしていた。


 7月頃にボーナス前の事務処理が立て込んでて、と珍しく同じ部署のミツハシさんが遅くまで残って残業していた。


 その日は新しい案件の提案があるということで、部長をはじめとした上司がみな外出していたりいて、フロアにはミツハシさんと僕だけが残っていた。


 ミツハシさんは同じ部署にいる女性2人のうち、若い方の女性だ。同じ部署のもう一人の女性とは、ミオさんの作戦もあって話せるようになった。


 だけど、ミツハシさんは短大卒で僕と4つも歳が離れてて、何を話していいかも分からなかったために、これまでは中々話もしてこなかった。



 でも、こういう「普段と違うシチュエーションは会話を始めるいいきっかけ」

 ……と前にミオさんに教えてもらった。だから女性が普段と様子が違うところに男性は素早く気づかないといけないらしい。


 トイレから席に戻る途中で、まだミツハシさんが頑張っているのが見えたので、

「今日は珍しく残業なんだ。何か手伝おうか」なんて声をかけてみた。


 ミツハシさんは少しびっくりした後に、「ありがとうございます」と笑顔になった。

こんな風に笑うんだ。つり目気味なのでもっと愛想悪いかと思いこんでいた。


 笑うと幼さが強調されてかわいい。その親しみやすい笑顔を見ていると、「自分が勝手に壁を作ってたのかもしれないな」と思った。

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