EX2 会議

 アルトロの町外れの、暗い道。人通りは誰も無く、周りの建物から漏れるかすかな光だけが光源となっている、暗い道。そこを、1人の男が歩いていた。路地裏に入り、奥へ奥へと進んでいく。明かりはない。暗闇に慣れた目だけを頼りに、どんどんと進んでいく。ある程度進むと、暗い路地裏には不釣合いな新しいテンキーと、カメラがついている一つの扉の前に立った。暗証番号を入力し、しばし待つ。すると、扉のロックが外れた音がした。

 扉を開けて、中へと進む。建物の奥にあるらせん階段を降りていくと、小さな部屋に出た。そこは薄暗く、1つの小さなランプだけが光源だった。小さな部屋には、男が3人、椅子に座っていた。その中の1人の男が口を開く。

「おせえぞ」

「悪い」

 それだけの短い会話をし、席に着く。それからすぐに、男は口を開いた。

「それじゃ、始めよう」

 男のその言葉に、無言で首を縦に振り、了解の意を示す男3人。

「これからは名前で呼ぶことは控える。それぞれコードネームをつけよう。そうだな……、そっちから、レッド、ブラック、イエローとしよう」

「そんな適当な名前でいいのか?」

「こんなのには意味は無い。こだわる理由もない。作戦が終わってしまえば、どうせ使わなくなるんだ。さて、レッドから、順に報告を頼む」

「……私が集められたのは1082人。内訳は男682人、女400人です。いずれも並みの一兵士以上の力はあるかと。意志は固く、裏切るようなことはないような人選です」

 レッドと呼ばれた紳士風な服装の男が、立ち上がりそう告げる。報告を終え席に着くと、右にいたブラックと呼ばれた屈強な男が立ち上がる。

「こちらも抜かりは無い。学園内の警備体制、警備位置は把握できた。それと潜入からのルートも確保してある」

 ブラックが座ると、今度はイエローと呼ばれた男が立ち上がる。彼はブラックとは対照的な、少しやせ方の小さい男だった。

「衣類は全て確保完了。武器も確保済みだ」

 短くそれだけ告げると、席に着く。3人の報告を聞いて、満足げに男は微笑んだ。それから、口を開く。

「ありがとう。さて、作戦内容を話そうか」

「ああいや、待ってくれ『死神』さんよ」

 その言葉に男は、ん? と言いブラックのほうを見る。ブラックは手のひらを男のほうに向けて、静止の意を示していた。

「俺らはあんたをなんて呼べばいい? 『死神』、でいいのか?」

「ああ。それで構わない」

「わかった。話を区切って悪かったな。続けてくれ」

 ブラックは手のひらを返して、どうぞ、というような意思表示をする。それを見ると『死神』と呼ばれた男は話を続けた。

「それでは作戦内容だ。決行日時は明日正午きっかり。できれば1時間以内には各主要施設を占領してもらいたい」

「1時間以内ですか……。学園とは言えど、教師陣はやはり手練れ。他の校舎などはともかく、事務系の揃う一号館は難しいかもしれませんね」

「ああ、一号館は俺を主軸に、主力部隊で突入する」

 それなら、とレッドが頷くが、『死神』は腕を組んで少し難しい顔をする。

「ただ、問題は各主任……。レイド、狐禅寺、ファランブルだな。あの三人は相当だが……」

「大丈夫。俺、いける」

 イエローが口を開く。その言葉を聞いて、『死神』は少し考え、答えを決めた。

「そうだな。お前にも協力してもらうか。そうなると他が手薄になるが、お前らも合わせればいけるだろう?」

 『死神』がブラックとレッドを見る。ブラックは自身ありげに腕を組みながら答える。

「ああ、問題ねえ。人質もしっかり回収しておくさ」

「頼むぞ。集めたら、迅速に第一闘技場まで運んでおいてくれ」

「了解」

「わかりました」

 レッドとイエローは、声を合わせて了解の意を示した。その様子に『死神』は満足げに頷く。

「潜入の手はずはちゃんと伝えてあるんだよな?」

「ええ、抜かりなく。警備室で警備員の身代わりをする者もすでに手配しています」

「なあ、1ついいか?」

 そこで手を上げたのはブラックだった。

「俺の予想以上に人が集まって……1000人ちょいだったか? そんな人数、ちゃんと潜入できるのか?」

「ああ、問題はない。学園の警備体制はゆるゆるだ。平和が4年続いただけで、奴らは油断しきってる。軍が強すぎるから、軍がなんとかしてくれるだろう、という心の油断も生まれてる」

 答えたのは『死神』だった。『死神』は、学園に呆れたような口調で続ける。

「それに、元々広大な敷地なんだ。数を分散して各監視所から攻め込めば何の問題もない。……他に質問はないな?」

 3人が頷く。『死神』は立ち上がり、三人に語りかける。

「さあお前ら、楽しもう。軍もまだ派遣されていない今がチャンスだ」

 そして手を広げ、不気味な笑顔で続ける。少し長い白い髪が揺れる。


「俺たちの、復讐劇の幕開けだ」

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