騎竜出撃
ドラゴンは三頭いる。出撃以外の選択肢はない。あとは組み合わせだ。
「武甕槌命様、場所はここでいいんですよね」
俺が言うと武甕槌命は三頭身の全身で頷く。座敷童子はいつの間にか消えていた。
「これはいいタイミングでいい買い物したねえ。よいっちゃんはどうする?」
「留守番」
「了解、行ってくるね」
義経はひょいと勇治の脇へ立った。
「なんだ?」
「乗せて」
おんぶでもしろってか、そう言った勇治が無言で義経にぶん殴られた。
俺は政宗を見る。
「うむ、儂は大将殿と共に参ろう。小十郎!」
「はっ!」
「魔法使い殿に乗せていただけ」
「承知」
これで三組。よし。
場所を確かめ立ち上がった俺は部屋を出ようとした。
「お待ちください。そのまま出られるおつもりですか」
「当たり前だ! これだけきな臭い情報があるんだ。出ないわけにはいかないだろう」
ラウールは黙って俺の額にべしっとスクロールを貼り付けた。
「それはわかっています。ですが先に隠蔽の魔法陣を各自発動してからです。それとインカムの使い方を確認してください!」
悲鳴のようにラウールが言う。
あわよくば、このまま魔王城に突っ込んでつかさを取り戻そうと思っていたのに。先走る心を見透かしたように睨んでくる。くそっ……
「わかったよ、武力偵察ってやつをやればいいんだろう」
「そう、場所と戦力の確認。武甕槌命の言うことが合ってるなら仮に移動しても検討がつく」
にんまり笑った義経が
俺は二、三度息を吸っては吐いた。やるべきことを心に刻む。
「よし、では今度こそ行こう」
「おう」
スクロールが魔力を帯びる。
ガチャガチャと金属音を立てながら、俺達は駐車場へと移動した。
「すぐに通路を開きますので続いてください」
エンジンをかける。
「行きます」
後ろに政宗を乗せ、目の前に広がる魔法陣を抜ける。通り抜けた先は草原が広がっていた。道という道も見えない。
ラウールはまたすぐに魔法陣を展開する。もう一度光を抜けると俺達は上空を飛んでいた。
《この先が向こうでいう洞爺湖近辺になるはずです》
《おお、これはすごいな。どうじゃ小十郎!》
ラウールの報告に、はしゃいだ政宗の声が被る。新しもの好きの殿様が辺りを見渡す気配が動く。
《そうですね、これだけ広大なら遠距離攻撃で叩けるだけ叩くが吉かと……》
《お前は真面目か。そうではない、空を飛んでいるのじゃぞ》
興奮した政宗の声がインカムを通して皆に伝わる。
《ちょっとお! 政宗様、気持ちはわかるけどさあ》
義経が笑う。お前の声も楽しそうじゃないか。だが楽しんではいられない。
俺は自分への戒めも込めて釘を刺す。
《引き締めてけよ、魔族の姿が見えないとはいえ魔王の支配地なんだからな》
しばらく飛ぶと草木が減ってくる。そしてある地点を越えると途端に緑が消えた。そこから先は枯れてしまった細木が転々と転がっているだけ。
「お城のあったとこって、そこの緑のところよ。形はねじくれてるけど、また少し緑が育ってる」
ひょいと現れた座敷童子が俺の横で言った。
荒廃した場所だからこそ草木の緑が目立つ。あそこか。
《わらしちゃん、だったよな。ありがとう》
《直接、地下を巡る魔素溜まりから吸い上げようということだったのですね》
ラウールが呟いた。
だから魔王の城がここにあったということか。
《ええ、おそらくは。魔素というものは地脈の流れに乗って循環していますが、ところどころ溜まる場所ができますからね。そこから取り込んだ方が効率がいい、ということだったんでしょう》
《ってことは、ここはもう取り尽くして次に動いたってことなのか?》
《推測ですが、そういうことかと》
なるほど。魔素が少ないせいで魔族も現れないか。ん? あれは。
《なんかぶよぶよしたのがいるけど、なに?》
《スライムか? 魔物は沸かないんじゃないのか?》
《いえ、魔素は循環していますから、また魔素が溜まって
時間はかかるでしょうが、とラウールが言う。
《わらしちゃん、城はどっちへ行った》
向こう、と座敷わらしが指差した。
《ここはいい、先へ行こう》
応、と返事が返ってくる。ドラゴン達がスピードを上げる。
《全然変わりばえしねえな。どこ見ても同じ景色だ》
《そうだね、城さえ見つければ力押ししてもよさそうだ》
先へ進んだが確かに眼下の景色はあまり変わらない。
ラウールの表情だけが変わった。
《どうした?》
《発見されたようです。来ます》
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