作戦会議
「お主ら、なんでそんなに馬鹿丁寧な扱い方なんじゃ」
政宗は呆れたように言うが、刀剣や甲冑は美術品としても価値があるだろう。そういう感覚があるせいか、つい丁寧に扱ってしまう。
「実用品ぞ? 使えば傷もつくが手入れをすればいいのじゃからな」
「わかってるんですけど」
それにしてもよくこれ着て動けるな。小札や飾りがいろいろ付いてんのは動きにくくないんだろうか。
「伸縮性も良い。それに西洋の甲冑よりも通気性が良いのではないか」
勇治がダラダラ汗をかきながら俺に向かって愚痴を飛ばしてくる。
俺達が文句たらたらで運んでる中、義経達が戻ってきた。
「あれえ、政宗様も持ってきたの」
「うむ、やはり格好がつかんのでな」
政宗様「も」ってなんだ。
「僕も買ってきたんだよ」
「ちょっとお二人! 重いんで、そこどいてもらえませんかね⁉」
のんびり話し出す義経と政宗を蹴飛ばしそうになる。
「マジで刀千本も集めようなんて思った奴アホじゃねえのかって思うわ」
言った勇治に対する義経の笑顔が怖い。
「
こ、これは関わらないでおこう……
運びきった甲冑刀剣で溢れた部屋の中、政宗は満足そうにうなずいた。
「勇治、これを貸してやる」
「ありがとうございます!」
鯉口を切って抜いた刀身のすらりとした美しさは素人の俺でもわかる。美しさだけではなく鋭利な研ぎの冴えが頼もしい。
見惚れていると横でガチャガチャと具足の擦れる音がした。
「義経? それ……」
「うん、買ってきた」
新品……だよなあ、誰から買ったんだよ。
「趣味で作ってる人をネットで見つけたんだよ。見に行ったら結構いい出来じゃない? 買ってきちゃった」
「軽っ!」
俺達が運んだのは
「これは
「そうだな、豪華っていうか派手っていうか、なんかすごいな」
わりと派手目な色合いの義経の鎧に対して伊達組は黒一色。
「うむ、わしらのは所謂ゆにふぉーむというやつじゃからの。全員これで統一しておる」
「へえ、そうなんだ。かっけーじゃん。俺も着けてみてえな」
勇治が好奇心丸出しで見入っている。
「へえ、着けてみると意外と軽いんだな。運んでた時はもっと重いのかと思ってたわ」
「あ! いたいた。よかった!」
勇治の声に被るように、子どもの声がした。
座敷童子?
子どもが二人、膝をそろえて真剣な顔で言った。
「魔王の城が消えちゃったよ。それと武甕槌命様がお話あるって」
なんだって?
「悪いけど、ひとつずつ頼む」
「うん、まず魔王の城のことね。洞爺湖付近にあったのは間違いないの。それは向こうの世界を探索して確認したよ。けど、あの光る模様が出たの」
「魔法陣のことですか」
ラウールが言うと、頷いた子ども達は話を続けた。
「そう、それが城を包んだと思ったら消えてちゃったの。離れたところに出たみたいだけど正確な場所はまだわかんなくて」
「ありがとう、助かったよ。それで武甕槌命の話っていうのは……」
そこに来てるって言われたけど、どこにいるんだ? ってか動けないって言ってなかったか。
「ここだここだ!」
小さなかん高い声がした。
キョロキョロ辺りを見回す俺達に苛ついたような声が飛ぶ。
「お前らこっち見ろ! 座卓の上!」
……なんだこれ? デフォルメされた二頭身のちみっちょい何かが二つ、座卓の上に乗っていた。腰に手を当ててふんぞり返っている。
「お前なんか失礼なこと考えてるだろ」
「いえ、とんでもないですっ!」
武甕槌命と……もしかして、もうひとりも神様か?
「こいつは
「うん。
「あ、はい。ありがとうございます。ってそれより、なんでこんなちっさいんです? 話っていうのは何なんですか?」
「ちっさい言うな!」
そう言いながら頬を膨らますのは、もう可愛いとしか言えないんだが。
「このサイズなのは神宮から動けないからだよ。
武甕槌命とは正反対に色白で長く白い髪を持つ経津主神が静かに言った。
この国の形が鯰に似ているのは気のせいでもなんでもなく、地脈の流れに沿って形作られたからなんだそうだ。神様達の仕事は、この大鯰をがっちり押さえて暴れないようにすること。
「それでも最近は大鯰の力を押さえきれず歯がゆい思いをした。俺らも歳取っちまったからかなあ。力不足だったよ」
あっさりとした言葉とは裏腹の苦い表情に言葉もない。
そんな武甕槌命を見ていた経津主神は、振り向いて俺を見る。
「魔王がこっちでいう洞爺湖近辺に城を置いてたって座敷童子から聞いたよ。リンクする場所に置かれてた
その言葉に座敷童子が二人そろって、こくこくと頭を振った。経津主神は話を続ける。
「ここと蓮の世界は妙に重なり合うところが多いよね。ということは向こうで起きたことはこの世界にも影響が出る可能性が高い。実際、小さな地震が何度も起きてた」
経津主神と顔を見合わせうなずいた武甕槌命は俺を見た。
「それと俺の分社のひとつから、どうにも嫌な気配を感じる」
小さな二頭身の神様が深刻な表情を作る。
「正確な魔王城の場所はわかんないんだけど、この方角から気配を感じたんだ」
座敷童子が広げた地図を指さす。
「つまり分社のある場所は、向こうでも何か重要な地点なのかもしれんのだ」
二人の神様の目が俺に向いた。
これは急がなくては。つかさのことだけじゃなく、この世界も俺の世界も危機であることに間違いはない。
「とにかく早急に魔王の所に辿り着くべきだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます