<魔王の城>遊戯

 ろうそくの灯りが城の中を照らす。その炎は闇をより濃く照らし出していた。


「いやあ、楽しかったね」


 自分の背丈よりも大きな椅子に深々と身を沈めた少年魔王は、そう言って背の高い異世界の魔王を出迎えた。


「離してよ!」


 つかさが自分を捉えた異世界魔王の手の中で抗う。

 それを鼻で笑い、少年はわざとらしいほど弾んだ声を出した。


「離してあげなよ」


 その声でやっと後ろからの手が、つかさから離れた。


「ちょっと! あたしを帰して!」


 詰め寄るつかさを呆れたように見下し、少年魔王はため息をついた。


「おねーさんも勇者様もバカなの? 帰らせろって言われて、はいどうぞなんて言うわけないでしょ」

「ほんっと、ムカつくわね!」


 それまで苦悶の表情を浮かべていた異世界の魔王は、呪縛から解き放たれたかガクリとうなだれ膝をつく。


「眞生さん! 大丈夫?」


 振り返って異世界魔王に駆け寄り、つかさは少年魔王を睨みつけた。


「やっぱり魔法使用には法則性があるみたいだね。異世界に転移すると本来の魔力が出せないんだ」

「だからそう言ったであろう。少しは信用してほしいものだな」

「はあぁ、異世界の魔王様はよく言うねえ。どの口が信用だなんて」


 せせら笑う少年魔王。


「こちらは口どころか、姿が顕現できぬがな」


 また別の嘲るような声が部屋中を飛び回った。


「なにこの声。どっから聞こえるの?」


 姿は見えずともその存在感に圧倒され、つかさは身を縮めた。

 それを気にもとめず少年が言う。


「うるさいよ、おねーさん。お遊びは終わったからもう殺してもいいんだけどな。さて、どうしようか」

「ならばこの者は我にくれ。もはや不要というならかまわんだろう」


 咳き込み、喘ぐように言った異世界魔王。少年魔王はその顔をぐいっと持ち上げる。


「そうだねえ、しばらく預けてもいいかな。ただ、僕は勇者を倒したいんだよね。世界を手に入れたいんだ。そのために必要なら返してもらうよ」


 少年魔王は歌うように言葉を続けた。


「勇者のモチベーションは下がると思うんだよね……うん、殺しちゃってもいいかと思ったんだけど、それなら餌にする価値もちょっとはありそうかな。ね、そう思わない?」

「知らぬ」

「面白い」


 三人の魔王は三様の思いを吐く。


「貴様に召喚される前に我は依頼を受けておる」


 異世界の魔王が言う。


「なにそれ人間みたいな話じゃない。冒険者とかいうやつ?」

「そうだ、その理解で良い。それに契約で縛るというなら古き契約の優先順位が高いぞ」


 白けた顔で少年魔王は頬杖をついた。


「じゃいいや、好きにしなよ。あーあ、面倒くさいなあ」


 異世界魔王はそうすると言い、声だけの薄黒い影は跳ね回るように動いた。


「ほほう! それは面白いな。さて、どうなる」


 声の気配と薄黒い影は、じわりと濃さが増す。


「……面白い、千年寝て暮らすより余程面白い。まさに良い暇つぶしだ」

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