異世界カンファレンス
「蓮様、眞生様のバイクはお預かりしました」
そう言って蓮の前に座ったのは、久しぶりに会ったトゥロさん。
それ以外にもいっぱい人がいて、いつもより騒々しい。
「つかさ様、お久しぶりです」
「ノエル! 来てたんだ」
「はい、装備関係とかいろいろあって駆り出されました」
知ってる顔があるとほっとする。
ノエルと話してるところに勇治さんが顔を出した。
「戻ったぜ」
「勇治さん、お帰りなさい。どこ行ってたんですか?」
「これこれ」
あ、ピアス。
「これ普通じゃねえのな、穴あけてもらってつけたらいつの間にか埋まっててよ」
埋まる?
よくわからなくて見せてもらったら、言ってるそのまんまだった。受けの金具とかなくて、っていうか
「これ多分魔力こもってるやつだ。さっきから体中なんか巡ってる感じがしてしょうがねえ」
「大丈夫ですか」
「ああ」
ぽわんとした顔の勇治さんは、魔力に酔っ払ったラウールさんみたい。
少し休むと離れた所で横になってしまった。
「大丈夫かなあ」
「わかんないですけど、多分」
ノエルと顔を見合わせた。
部屋の中を見回すと、トゥロさんと話してる蓮の横でラウールさんは電話中。
「はい、転送して下さい。宅配はもう遅いです。転送で……はい、はい。スクロールがあればいいでしょう。それは用意します。そうですね……いえ、そこは行ったことがないので……」
どこかと通路つなげたいのか。これは手伝えないなあ。
そんな風に思ってたら、今度は小学生くらいの男の子と女の子がノエルの横からヒョコっと顔を出した。
「こんにちはー」
「ちはー」
「わらしちゃん? 童子くんも! 久しぶりだね。パレード面白かったよ。最後はなんか不思議体験したみたいな感じだったし」
挨拶をしてるところでスマホがあたしを呼んだ。
「ごめんね、ちょっと出てくる」
座敷わらしを相手に遊び始めたノエルを見ながら電話に出る。
「はい」
「お! つかさちゃん? 僕、義経だよー。勇治なにしてんの?」
「お昼寝中です」
「ええ⁉ どうりで電話出ないと思ったよ。あいつから連絡してきたのに。もうっ、たたき起こしちゃって!」
「起こしてみますけど……大丈夫かな。起きたら連絡するように言いますね」
通話を切って勇治さんを起こしにいってみる。あんまり調子よくないみたいだから休ませてあげたいんだけど。
そっと起こすと、むくっと勇治さんが体を起こした。
あ、ちょっと機嫌悪そう。
「大丈夫ですか?」
「つかさちゃんか。さっきより大分いいよ」
「義経様から連絡あったんですけど、折り返しますって言っておきました。あの、お茶でも淹れましょうか?」
「そうだな、頼むわ」
勇治さんはため息をついて頭を抱えた。それでもスマホを手にする。
あたしはお茶の準備をしながら聞くともなしに周りの声を拾っていた。
「やほー」
「与一に代われ、お前じゃ話が長くなる。地獄にでも落ちたのか」
「なんでわかるの。いや、地獄じゃないんだけどね」
文句を言う義経の声がスピーカーから聞こえてくる。
「ほら、代われ」
「……はい」
今度はぶっきらぼうな与一さんの声。
「よう、こっちに呼んでもいいか」
「ああ、願ったりだ。この泥田から引き上げてくれるなら早くしてほしい」
やっぱり落ちたのか、と勇治さんはため息をついた。
「そのままちょっと待ってろ」
ラウールさんのとこに行ったってことは……ここに呼ぶの⁉ できるのかな。知らない場所って難しいみたいなのに。
通話を代わったラウールさんは眉間にしわを寄せて。話をしながらなにか書き始めた。
なに書いてんだろ。ん? 外が光ってる?
綺麗なガラスの小瓶をキュポッと開けてエナジードリンクみたいに流し込みながら、高速で書く手を動かし続けている。
窓の外に見える露天風呂からバシャンッと派手な音がした。
義経と与一さんがほかほかとお湯に浸かってる。
「泥もちゃんと落としたぞ。その分はサービスしてやる」
「やなやつう」
口をとがらせて服が脱げないと文句を言う義経と、面倒くさそうにそれを引っ張る与一さん。
「ほら、これでも着とけ」
義経がタオルと着替えを取り出す勇治さんに抱きつこうとする。
早く服着てよ!
っていうか、これってラウールさんがすごいのよね?
当のラウールさんは目の下にクマを作りながら、今だにあれやこれやと格闘していた。
「それにね、人間と一緒にいるなら人間の生活に合わせていかなきゃならないとこもあるの。イベント収入あるのは結構大きいんだよ」
こっちはこっちで、座敷童子の講義が続いてるみたい。ノエルが感心したようにうなずきながら聞いている。
「なるほどね。子どもなのにえらいねえ」
「ぼくたちは君より、だいーーぶ年上だよう」
それを横に聞きながらお茶を淹れる。
いくつか湯飲みをお盆に乗せ部屋の中を回る。勇治さんに渡した後、蓮のとこにも持っていこうとしたんだけど。
こっちもお客様がいるじゃん。
私服の色は黒なのに地味に見えない。むしろ派手。この黒づくめって……
「ええと、藤次郎君だっけ?」
あたしが声をかけると武将ちっくな答えが返ってきた。
「無礼な、政宗様と呼べ」
「かまわぬ、好きに呼ぶがいい」
ご機嫌な様子で鷹揚に笑った政宗様はホントに殿様みたいだわ。
その政宗様に短く礼をして後ろに下がる二人は忠実な臣下って感じ。
「家臣かよ……」
勇治さんがお茶を啜りながら呟く。
「よく知っておるな。これは
政宗様の傍から離れない伊達の主従は、小揺るぎもしないって感じで黙って付き従う。ってことはこの子達もそうなのか。真面目な景太君って子も、なるみちゃんって呼ばれてた子も。
「わあ……お兄さんモテますねえ」
今度は童子くんの声に振り向く。
そしたら勇治さんの膝の上に、ちゃっかりわらしちゃんが座り込んでいた。義経は、
「俺は稚児にも幼女にも興味ねえ」
それを聞いた童子くんも義経の反対側でニヤニヤ笑いながら勇治さんにくっつく。
「お前らなあ……小っ恥ずかしいから
小さい子に囲まれてる勇治さんに皆の目が集まる。
蓮もそれに苦笑してたけど、深呼吸するとパンッと手を打った。
皆の目が勇治さんから蓮に移る。蓮が立ち上がって皆を見回した。
「集まってくれてありがとう。この先は魔王と直接戦うことになる。俺に力を貸してくれ」
蓮が言うと皆がうなずく。
「ここからは特に用心してかからないといけない」
海を渡ったここは魔王の支配力の及ぶ地域なんだろう。そこまではあたしにも想像できる。
「だな、まずは足りない情報を取りに行こう」
「まずは偵察に出る。すぐに戦闘になるかもしれん。気をつけてくれ」
蓮は勇治さんの言葉に続いて宣言するように方針を出した。
出発した時の勇者パーティはおまけのあたしを含めて五人だった。だけど今はもっとたくさんの力を貸してくれる人達がいる。
「俺ひとりの力なんてたかが知れてる。もう一度頼む。皆の力を貸してくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます