道の奥を走る
結局、藤次郎君達とは後で合流することになった。旅の準備とか装備や他の荷をどうするかの相談もしてたし、これからいろいろ大変だな。
やっといろんなことが少しわかってきたよ。ハッシュタグがそんな変わった使い方されてたのも初めて知った。これだけいろんなもの見たら知らない方が意味がわからなすぎて混乱するわよ。
翌朝は、あたし達も二組に分かれて北上することになった。
「ちょっと向こうの様子が気になってきた。偵察は俺とラウール、二人で行くからお前達はこっちで移動してくれ」
蓮とラウールさんは向こうの世界で、あたしと勇治さん、眞生さんはこっちで。
あたし達を見回すと蓮はバイクに
「つかさ、無理すんなよ」
「うん」
「ちゃんと勇治達の言うこと聞けよ」
「わかってる。蓮も気をつけてね」
宿の敷地を出てすぐに通路を開いたみたいで、早々に二人の姿が見えなくなる。
「んじゃ、俺達も行こうか」
勇治さんはからからと笑いながら、あたしの肩を叩く。
「なあに緊張してんだよ」
「き、緊張なんてしてませんー!」
「気楽に行こうぜ、あいつらも何かあったらすぐ連絡くれるだろうからさ」
駆動音が響く。振り向くと眞生さんがヘルメットを手にしてる。
ニッと口角を上げると勇治さんもバイクに跨った。
「まずは動こう。そんで状況を見極めるんだ。心配し過ぎや考えすぎは、つかさちゃんにゃ似合わねえよ」
「それってあたしがアホみたいじゃないですか」
「いやあ、そんなこと言ったか? 言ったか!」
「もうっ!」
「つかさ」
眞生さんったら、なによ。
「なんですか!」
「乗らないなら置いて行くぞ」
「え?」
そして眞生さんはゆっくりと動き出す。
「え?」
「そうだな、乗らないなら置いて行くか」
「え? ちょっ……」
勇治さんまで! やだもう、二人とも待ってよ。あたしは慌ててバイクのキーを回した。
《そんじゃ出発ー!》
走り出したあたし達は北へ向かう。
《勇治》
《なんだ?》
《つかさの扱いがわかってきた気がする》
眞生さん? インカム入ってるんですけど! どういう意味かなっ。
《そりゃよかった。面白れえよな、こいつ》
《うむ》
《あのう、あたしだってデリケートな乙女なんですけど》
《な、面白れえだろ》
《どこがですか! もういいですいいです! 楽しんで行きましょー!》
《ようし! 飛ばすぜー》
《そこは安全運転で!》
《へーい、気をつけまーす》
ちょこちょこ立ち寄って撮影した場所もあったけど、走りっぱなしの時間も意外と長かったなあ。
バイクを止めて体をほぐす。
ここは藤原三代の栄耀栄華の地。
眞生さんはさっきから無言で腕を組んだまま。どうしたんだろう。
「ん、あいつは気にすんな。集中してるだけ」
「集中って何にですか」
「依頼が入ってるんだ。悪いけどちょっとつきあってくれ」
イマイチよくわかんないけど、もう少し休憩がてら待てばいいのかな。
「あの世界との通路と違って、こっちは下手すると変なもの連れてきちまうからな」
なんかすごく不穏な言葉が聞こえてきたけど?
その人達どこから来るの? もしかしてまた異世界の誰かってこと?
「……来た」
眞生さんが呟くと同時に目の前に大岩が現れた。
「よし、少しだけ開けるんだ。
「は、はい!」
ゴロゴロと音を立てて、なにかを塞いでいるらしい大岩が動き出す。
……ゃぁぁぁぁぁああああああああ!!
なに、あの声? ものすごい勢いで誰かが走ってくる。何かに追いかけられてるの? って追いかけられてる! なにあれ⁉
「っしゃ! 出られた」
「はあ、はあ……」
走ってきた人影が二つ、岩戸の細い隙間から飛び出した。
「よし! 塞げ。急げ急げ!」
岩戸が閉まる。同時に雄叫びも聞こえなくなった。
岩戸が閉まる一瞬、目の端が異形の影を捉えた。あんなのが出てきたらって思ったら膝が震えた。あれはなんなの。
「
「誰のせいだよ」
肩で息をしながら倒れ込む二人。眞生さんも岩戸を消して大きく息をついた。
「いや、
「へ? それって……じゃ、あの岩」
呟いたあたしに、さらっと返された返事がとんでもなかった。
「
「少し休む」
「ありがと魔王様。助かったよ」
誰? この人達からの依頼ってやつだったのかな。
「あ、ども、義経だよ」
「与一だ」
よしつね? よいち? 源平合戦ですか? 二人を目の前にして、あたしはポカンと口を開けた。
「ねえ、何か固まってるよ? この子」
「うーん、異世界勇者と繋がるのにもだいぶ慣れてきてたと思ったんだけどな」
帰ってこーいと笑いながら言う勇治さんの声になかなか反応できず、あたしはしばらく呆けていたらしい。
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