あたしにだってやれることはあるのよ!

「帰ってきてくれるって信じてた。けど本当はやっぱり怖かった。万が一がないわけじゃなかったから」


 抱きしめられて頭を撫でられて、いつものことがこんなに幸せなことだったんだって思い出した。

 ふふっ、髪の毛くしゃくしゃになっちゃうよ。ぷうっと膨れてみせて伸びてきた腕を捕まえる。ほうら、もうくしゃくしゃにはさせないもんね。


「トゥロのとこで待っててくれればよかったのに」


 そう言って、その手ごとぎゅってされた。

 それでもあたしはここに来たかった。あたしが約に立つことがあるかもしれないんだもの。

 ああ、こうして蓮の傍にいることはなんて心地いいんだろう。なんて幸せなんだろう。

 その時、あたしの思いをぶった切るように魔王の声が聞こえた。


「ねえ、感動の再会とかいうやつ? それもういいでしょ。そんなのいいからさ、僕と遊んでよ」


 なん……ですって?

 あたしはピタリと動きを止めた。知らず知らず、蓮の腕を取った手に力が入る。


《あ゛……? だだだだだだっ! 痛い痛い! ギブギブ!》


 ちょっと蓮、静かにして。こいつ今なんて言ったかな……


《そんなの、いいから?》

《あ、やべ! つかさ、い゛でででで! 怒るなって》

《蓮は黙ってて!》

《はいっ》


 そんなの、ってなによ。あたしは蓮に会えて本当に嬉しかったし、今すっごく幸せなんだけど、それにケチつけようっての?


『ニーズヘッグ、下ろして』

『……』

『下ろして』

『はいっ』


 地上に下りたあたしは拳を握りしめ、ゆっくりと魔王に向かって歩き出した。

 大地を踏みしめギッと魔王を睨みつける。戦場の風があたしと魔王の間を通り抜けていった。

 許さん……

 あたしはビシリと指差して吠えた。


《許さんぞ魔王!》


 怒りのオーラを背にあたしは魔王と対峙する。


《あちゃぁぁぁ……こいつの怒りのツボに触るとヤバいぞ》

《ほへえ、お前も大変だな》


 蓮の言葉に反応したのは勇治さんね。後で覚えてらっしゃい。その軽口を減らしてあげましょう。


《いいんだよ、それも含めてこいつなんだから》

《ふむ。仲良きことは美しき哉》


 ふふふ、眞生さんはわかってるわね、さすが異世界の魔王様だわ。


《イチャイチャしてるところ何だが攻撃していいのか?》


 やだ、政宗様。イチャイチャだなんて。恥ずかしい。


《蓮。つかさって、こんなキャラだったの》


 この声は義経。前にあんた言ったわよね、戦えっていうなら戦うわ。ごちゃごちゃ言わずにそこでお待ちなさい。

 呆然としたままの弓士から弓矢を取り上げる。引き絞った弓を魔王に向ける。


「へえ、そんなんで僕を倒すつもりなの?」

《やれないとでも思っているのか》

「はん! やってみなよ。それだけ言うなら結構な腕なんでしょう?」


 魔王に向けた矢が飛んだ。

 そこに的があったなら、真ん中の黒丸を打ち抜いたのが見えただろう。矢は魔王の体を通り過ぎ黒い霧を一筋その場に散らした。


「やるねえ、確かにど真ん中だ」

《止める間もないじゃないか。つかさ、下がれ!》


 今いいところだと思うのだけど? なぜ下げられてしまうのかしら。

 連れ戻された憤りをこめて蓮を睨む。


《ありがとな、俺はお前がいてくれるだけでも心強いんだ。だからこの後は俺にやらせてくれないか》

《ん……うん》


 蓮がそう言うなら仕方がないわね。


《……魔王め、命拾いしたな。その命もう少し預けおく。首を洗って待っていろ!》


 あたしは、もう一度魔王を睨んでからきびすを返す。

 蓮は大きなため息みたいな深呼吸をして、吹っ切るように言った。


《ちょっと間抜けな感じになったけど魔法と矢の攻撃を再開する。政宗、伊達組で連携して攻撃を》

《あいわかった!》

《うむ、推して参る》


 ん?……間抜け?

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