あたしは帰ってきた
「あああああ‼ あ……あ?」
衝撃が通り過ぎた。
それは確かに言われた通り一瞬のことだったけど。身体中に電気が走るみたいなあんなのは……眞生さんとポーションのおかげだ。
「つかさ様⁉」
「ノエル? わ、ノエルだ。どうしてここにいるの?」
「どうしてじゃないですよ! 大丈夫ですか! 生きてるんですね!?」
ペタペタあたしを触りまくるノエルの顔が、くしゃくしゃになっていく。
「よかった。ほんとによかった。つかさ様、よかったあああ」
ぽろぽろとノエルの頬にこぼれていく大粒の涙。
「ごめんね、心配かけてごめん」
あたし達はしばらく抱き合って泣くだけだった。
「ノエル、教えてほしいんだけど」
涙を拭いて少し落ち着いたあたし達は、部屋に置かれた魔法陣やら地図やらの前で顔を見合わせた。
「はい、現在の状況ですね」
「うん」
蓮とラウールさん、眞生さん、勇治さんは魔王城に到着した。今まさに魔王と睨み合ってる。
政宗様達は騎兵を率いて一部隊としている。ユリウスさん達が協力してくれているのだそうだ。
義経と与一さんは魔法使いや弓兵と一緒にいるとのこと。
みんなそれぞれ得意分野にって感じなのね。
「ボルドールはどこなの」
「村でお預かりしてます」
「じゃあ、まず村へ行こう。足がないと動きにくい」
ノエルは何枚かある魔法陣の描かれた紙を用意する。
「では、行きましょう!」
魔法陣が輝いて通路が開いた。その向こうに蓮の村が見える。
「トゥロ様! 戻りました」
「おお、そうか。ノエ……つかさ様⁉」
あたしを見てトゥロさんは驚いたように声を上げた。
「大丈夫なのですか、どこか具合の悪いところなどは」
「ありがとうございます。あたしは大丈夫です」
そう言うとトゥロさんの肩の力が抜けた。
やっぱり心配かけてたんだな。でも申し訳ないけどまた心配かけそうなことを、あたしはしようと思ってる。
「トゥロさん、あたしバイクを取りに来たんです。足がないと移動が厳しくて」
それを聞いたトゥロさんは厳しい顔でとうしても行くのかと言う。
「あたしのやれることをしに行ってきます」
二人を前にあたしの心は自分が思っているよりも静かだった。
「それではせめて胸当てくらいはお使いください。それと応急処置用の薬と他にいくつか使えそうなものを持ってきます」
トゥロさんから装備品をパッキングしたものとインカムを渡される。
「インカムはこちらでも待機しておりますので、なにかあればご連絡を」
「ありがとうございます」
ボルドールのエンジン音があたしの気持ちを強くしてくれる。すごく久しぶりにこの子の声を聞いた気がする。
「ノエル、蓮のとこに送って」
「えっと……あった! 行けます。通路繋ぎますね」
ノエルの手元で魔法陣が輝いて通路が開く。
「じゃ、行ってくるね」
「はい!」
「行こう、ボルドール!」
あたしは通路に飛び込んだ。
抜けた先はすぐに緑が途切れて荒野のようになった。
荒れた土地をまっすぐに、不穏な気配に向かってバイクを走らせる。しばらく走ると、見えてきた。
居並ぶ騎馬隊。多分あれが政宗様達。後ろで人が動いてるのが弓士か魔法使いなんだろうな。横から回り込むと騎竜と最前線の様子がよく見えた。
魔王城の前をうぞうぞと魔物が
最初にこの世界に来た時に見たゴブリンや大型の犬みたいなやつ。凶暴そうな顔つきと雰囲気はさすがに怖そう。空を飛び回るのは小型のドラゴンみたいだし、女の人の顔をした鳥は確かハーピィだ。
魔物が敵意をむき出しにしてこちらに対峙している。
《魔法使いは攻撃用意。弓士も続け》
蓮の声。最前線中央、蓮のいる場所はそこ。
中空にいる黒いドラゴンの上で大太刀が攻撃を指示するのが見える。
騎馬隊の前に魔法使い達が出た。
その前に虹色の盾が光る。あれって眞生さんが交易都市でやってた
走りながらその光景を見ていたらやっぱり怖くなる。
けど、頭を振ってその気持ちを振り払う。怖がるな!
あたしは決めたんだ。そんなに運がいいんなら自分の運のよさに賭けてみようって。
我ながらむちゃくちゃだとは思う。でもあの塔から落ちて生きてられるんだから神様の幸運はかなりすごいもんだと思うのよ。
バイクを止めて風向きを確認。うん、ちょうどこちら側からの追い風。
「いくよ、ボルドール」
前線で魔法攻撃や矢を放つ皆に向かって走り出す。スピードを上げて魔物達との間に走り込む。ブレーキターン。テールを振ってバイクが止まる。スリングショットに丸薬をセット。放つ!
ぼわっと真っ白な煙が辺りに充満した。
《つかさ⁉ ラウール、騎竜に!》
蓮の声が聞こえた瞬間、あたしの体はぐんっと空中に持ち上がった。
赤いドラゴンがあたしを空へ運ぶ。
『ご主人、また会えて嬉しい』
『ボルドール! うん、あたしもまたこの姿で会えて嬉しいよ。行こう、蓮のとこへ』
くるっと空を回ると黒いドラゴンが見えた。まだ驚いたままの蓮の顔。
帰ってきたよ、蓮。あたしは帰ってきた。
《つかさ!》
蓮の顔が大きく見える。なによ、泣いてんの? くにゃくにゃした視界の中に黒が迫る。違う、泣いてんのはあたしだ。
《蓮!》
ぽとりと雫がこぼれると、今度は嬉しそうな笑顔がはっきり見えた。
あたしは広げられた腕の中へ飛び込む。
「おかえり、つかさ」
ただいま
って、言ったつもりだったけど声が震えて言葉にならなかった。
そんな場合じゃないのはわかってる。でもお願い。ちょっとだけこの腕の中にいさせて。
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