勇者よ、あたしは帰ってきた!
あなたに逢いたくて
落ちる。
通り過ぎる蓮の顔。そんな悲しそうな顔をしないで。蓮は悪くないんだよ。
物語の中で女の子が主人公の足手まといになる展開って嫌いだったはずなのに。気づいたら同じことしてた。
今ならあの女の子達の気持ちわかるなあ、だって傍にいたいんだもん。離れたくないんだもん。好きだから。ずっと一緒にいたいから。
「つかさああああ!」
蓮の声が追いかけてくる?
必死な顔で手を伸ばして。ああ、ありがとう。あたしを助けようとしてくれて。好きでいてくれて、ありがとう。
嬉しくて、思わず差し出された手に手を伸ばした。
指先が、触れそう……
衝撃が弾けて、意識が途切れた。
……あ、蓮の匂い。
腕に抱かれた時のぬくもり。このあったかい感じが好き。
唇が触れたような気がする。大好きだよ、蓮……
「おーい、つかさちゃーん」
女の子の声? なにこれ? すんごいエコーの効いたカラオケ。
「カラオケってなによ。起きて、つかさちゃん」
……ゆーぐ? なんだ、蓮じゃないのか。
「あ、起きた!」
よかった、と抱きつかれた。なにがよかったなの?
それよりさあ、ゆーぐってキラキラした新緑の匂いがするのよねえ。さすが聖樹の女神様。
陽だまりの中でさわさわと風が薫る。スミレの花のプチフール、香りの高い紅茶、女の子同士のお茶会は軽やかな笑い声で彩られる。そんなイメージが……
「ちょっと、つかさちゃん! なに考えてるのかなっ」
「ナンデモナイデスヨー」
ちょっと思ってみただけよ、そんな目で見ないで!
「そ、それよりなんか用が……って……あれ? あたし落ちて死んだんじゃなかった⁉ あ、待って。蓮は? 蓮は無事なの?」
「大丈夫よ」
よかった。蓮が無事ならそれでいいや。
「ほんとにあなた達って、お互いそうなのね」
なに? その苦笑い。それより用事はなんなのよ。
「ああ、ほんとに朝露持たせておいてよかったわ。で、現状なんだけど今のつかさちゃん、仮死状態になってるからね」
「いきなりなによ! 仮死⁉ 死んでないのね? ていうか、言い方軽くない?」
「死んでたら私と会えないわよ。言い方はつかさちゃんもだからね」
眞生さんがぎりぎりのところで魔法をかけてくれたんだそうだ。
落ちた瞬間、生命活動を最低限維持できるぎりぎりまで回復させてフルポーションの摂取まで時間を稼いだってことらしい。
だけど、それまでも魔力を使っていたからこれでほぼ枯渇してしまい、今は人と変わらないところまでになってるんだとか。
「それって、あたしのせいで眞生さんが大変なことになってるってことよね」
「違うわ。むしろ、わたし達のせい」
どういうこと? わたし「達」って……
「加護っていうのはそんなに飛び抜けた効果はないはずなのよ。けど……つかさちゃん神社とかわりと好きでしょ」
「うん、行くといいことあったから」
「行く度に神様が『お、こいついいな』って、ちょっとした幸運を授けてくれてたとしたら?」
それは……え、待って。あたし結構な数の神社仏閣巡りとかしたことあるんだけど。
ゆーぐはまっすぐにあたしを見た。
「あっちこっちで受けた幸運のお守りが積もり積もって、とてつもなく運がいい子になってるみたいなの」
「……そっか、あたし運がいいだけで助かったんだね」
そんで眞生さんに起こったのは、運がいいあたしを助けようとしてくれた、とばっちりなのかな。やっぱりあたしのせいじゃん。
「つかさちゃんは悪くないわよ」
「そう言ってくれるとちょっと心が軽くなるよ」
申し訳なさそうに言うゆーぐがちょっと不憫可愛い、なんて思って笑ってしまった。
「わたし、つかさちゃんのそういうとこ好きよ」
「どういう意味かなー」
「とにかく、もうすぐつかさちゃんは仮死状態から蘇生することになる」
あたしは黙ってゆーぐの目を見る。
「意識が途切れる寸前の状態に戻ることになるの。一瞬だけど結構な衝撃がくると思って」
そっか、ゆーぐはこれを伝えに来てくれたんだな。
「わかった。ありがとう、いってきます」
「いってらっしゃい」
ゆーぐの無事で、っていう声が聞こえたような気がした。けど、それは直後に感じた衝撃で吹っ飛んでしまう。
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