<魔王の城>成長

「魔素っていうのは、なかなか集まらないものだな」


 不機嫌な魔王の声。

 その姿はまたいくらか成長したようだ。

 十歳ほどのその姿は美少年といっていいだろう。その目に可愛らしさはかけらも見えないのだが。


「勇者はどの辺りまで来たの」

「はっ、水竜共の生息地付近でしょうか。あの辺りに何体かオーガがいたはず。潰し合わせますか」

「そうだね、オーガなら魔素の量もそこそこあるだろう」


 どこからか含み笑いが聞こえてくる。


「フフッ、のんきなことやっておるなあ」

「誰だい?」

「魔王様さ」


 辺りを見回す魔人達に囲まれた少年は、ついっと目を上に上げた。


「見下ろされるのは不愉快だな」

「おお、これはすまんすまん」


 笑い声が飛び回る。

 かるっと呟くと少年は立ち上がる。


「なんの用?」

「お主、魔素を集めたいんだろう? もっと効率よく集めればいいだろうに」


 魔王だと言った声は、嘲りが含まれていた。


「フン、言ってみなよ」


 魔素は大気中に漂うものと、地を巡りその土地を活性化させるものがある。特に地脈と呼ばれる、大地を巡る魔素の作用が強いところには魔物が沸きやすくなる。


「その流れの中で魔素の溜まる場所があるのだよ。そこから直接吸い上げればいい」

「へえ……いいね」


 ジロリと魔人達を見る。


「なんで言わなかったのかな。知ってたんでしょ」

「お許しください、そこまでされてはこの地が枯れてしまいます」

「ああ、そういうこと。僕のいるこの地が枯れ果てるのを心配してくれたんだね」

「そう、そうです!」


 いい子だね、と言いながら魔王はその魔人の頭を潰した。


「枯れたら捨てればいいじゃない」

「おお! やはり魔王だな、わかっているではないか」


 指についた赤をペロリと舐め魔王はわらう。


「お前こいつらの代わりに僕に世界を教えなよ」

「魔王を顎で使うとは大したもんだな」

「お前が魔王だっていう証拠もないし、別に誰でもいいさ」


 確かにそうだ、と声は笑った。


「こうなったのは偶然だが、面白そうな暇つぶしだ。なにせ、あと千年は寝て暮らさねばならんのでな」

「そういえば別にそんな暇つぶしにつき合わなくてもいいか」

「冷たいやつだ」


 声はまたクツクツと笑う。


「余も魔法は得意だぞ。この城ごと魔素溜まりに移動させる術式も知っているが?」

「ふうん。ねえ、僕の魔力量のほうがお前より多いってことを忘れないでよ。お前程度いつでも潰せるんだから」

「かまわんさ、それも一興いっきょう。どうせ寝ているしかないのだよ。言っただろう? 暇つぶしだと」


 歩き回るように声はフワフワと移動し始めた。


「異世界から召喚したやつに魔素溜まりを掘らせよう」

「なにそれ、人間でも集めるの」

「そんな非力なものを集めてどうする。魔王を集めるのだ」

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