ドラゴンズライド
窓を開けて朝の空気を吸い込むと、まだ暖まりきらないキリッとした空気が胸を満たす。
支度を終えたあたしとノエルがロビーへ向かっていると、ぱったり蓮と鉢合わせた。
「おはよ蓮」
「つかさ。おはよう、ちゃんと寝たか」
ああ、やっぱり蓮の傍にいると安心する。
隣に並んで肩にコテンと頭を乗せてみた。ここが好き。あたしの一番居たい場所。
そうすると蓮の手が伸びてきて髪の毛をくしゃってするの。その手が好き。顔を上げると優しい顔が近づいてくる。
「よく眠れたみたいだな、よかった」
「うん」
ほんわりした気持ちのまま、あたし達が歩きだそうとしたところで、こっちを見ているノエルと、いつの間にか来ていたラウールさんに気がついた。
「お前らなに見てんだ。さっさと準備しろよ」
「もう終わってます」
にこにこ笑う二人を見て不意に気づく。同時に顔が真っ赤になった。ヤバい。あたしったら、朝っぱらから何を乙女ちっくなことを!
「い、行こ。蓮」
手を引っ張って早足で歩き出す。後ろから声が追いかけてきた。
「いやあ、いいですねラウール様。見守りたくなります」
ノエルぅぅ! ラウールさんに同意を求めないで。
「ああ、わかりますか」
「はい、ああいうシチュエーションは大好物です」
ノエルもラウールさんもなに勝手なこと言ってんのよ。
蓮がぎゅっと手を握ってきた。
「俺はこういうの嬉しい」
あんたはああああ!
エンジンのリズミカルな音が辺りに響く。
バイクを前にしてちょっと落ち着いたわ。
「じゃあ、忘れずトゥロに状況を伝えてくれ」
「お任せください。書状は間違いなくお渡しいたします」
蓮に胸を叩いて応えたノエルは、あたしに気をつけてと手を振った。
「ノエルも気をつけてね」
「はい、ありがとうございます」
で?
「なんで蓮があたしのバイクに乗るのよ」
「ニーズヘッグが北門の先で待ってるから俺がお前を乗せてく。それともお前が乗せてくれる?」
「無理」
そんなの冷静に走れるわけないじゃん。絶対無理。
「乗せてってください」
「了解」
北を目指して動き出す。
「いってらっしゃいませーー!」
ノエルの元気な声と、手を振るユリウスさん始め町の人達に見送られて街道を駆け抜けた。
町の北門を過ぎると、クアアッと短い声がする。
「来たな、ニーズヘッグ!」
『蓮、待ちくたびれたよ』
「悪かった、もう少し走る」
ニーズヘッグの影が光を
隣を走っていたオフロードバイクが魔法陣の模様を通り抜ける。白い騎竜が空を駆け上がっていく。
《上空から場所を確認します》
ラウールさんだ。
《通行する者もいませんし、これなら騎竜化するのにも邪魔になりませんね。その辺で止まってください》
《おう》
《了解》
バイクを止めたあたし達は広い街道のど真ん中にいた。
「眞生様にも術式を覚えていただければと思うのですが、いかがでしょうか」
「ふむ、やってみよう」
ラウールさんと眞生さんは打ち合わせ中。なんちゃら変換がどうとか聞こえるけどさっぱりわからない。そして勇治さんはそわそわと落ち着かない。
「勇治さん、なんか落ち着かないですね」
「そりゃそうだろ。ドラゴン乗るなんて初めてだからな」
「騎竜ってあんまり一般的じゃないんですか」
「俺んとこはドラゴン自体が魔王側の戦力だったから不思議な感じはするなあ」
「あ、そっか。言ってましたね。色々違うんだなあ……」
ラウールさんが手を
眞生さんが同じものを書こうとして手間取ってはいたけど、何度か調整して重なり合う最後の模様が光った。
白っぽい少し小型のリンドヴルム、黒い艶のある金色の目のニーズヘッグ。
そしてあたしの赤いボルドール。
新しく出会ったのはアルとデューク。
濃紺の中に翆に縁取られた輝く鱗が綺麗な青のドラゴンと、闇のように真っ黒な体にオレンジ色の目、少し大きめのドラゴンだ。
「騎竜、五頭もいたら壮観だなあ」
「そうだな」
眞生さんは騎竜を見ながらため息をついた。
「細かい作業は難しいものだな。スクロールが使えれば楽だろうが」
「私はまだその技術がないのですが」
「基本的には一度書ければコンビニのコピーでもかまわん」
なんですと? 結構大変な魔法なんじゃないの? コンビニのコピー? ラウールさんもそれでよかったのかと呟いて呆然としていた。
「必要な情報が全て書かれているのだから、後は魔力を通すだけだろう」
「それはまあ、そうですが」
ラウールさんはまた、それでよかったのかと呟いた。多分考え方とか発想の違いなんだろうな。
「ただし複雑になればなるほど自分で書いたほうがいい。ゴミが映り込んだりしたら発動しない」
「長くなるようなら後でもいいんじゃないか」
二人の会話を蓮が遮った。
「残念だが
こっちは勇治さん。なんで残念なのよ。もしかして高いとこ苦手なのかな。
「いや地に足がついてないってのがな、なあ、これ不安定すぎね?」
「あたしもこれで乗ったけど、思った以上に安定してましたよ」
「そ、そうなんだ」
「大丈夫ですよ、勇治さんを落としたりしませんから信じて乗ってみてください」
あたしがそう言うと、勇治さんは信じるの苦手なんだよとボソッと呟いた。
勇治さん?
「まあ、そうだな。よしっ、何事も経験だ!」
不自然に明るい返事をくれる勇治さんに戸惑ったけど、出発の合図でそれもうやむやになった。
「インカム繋いどけよ」
蓮の声を合図にあたし達は次々と飛び立った。風が頬を撫でていく。
あたしは空を飛ぶの好きだけど苦手は誰でもあるからなあ。勇治さんホントに大丈夫かな。
《なるべく広がって下の様子を見てくれ》
《はい!》
《わかりました》
蓮を中心に反対側がラウールさん、眞生さん。こっち側が勇治さんとあたし。お互いの間隔を少しずつ広げていく。
眼下の景色が草原から森林に変わってくる。
《この森林地帯を抜ければ村があったはずです》
《ここは人里から離れているから魔物の活動地域だと思う。暴れてないなら手出しはしないが気をつけて見てくれ》
ラウールさんの言葉を受けて連が言う。
そのまましばらくの間は何もなかった。
あたしからは見えないけど、蓮のいるあたりからは丘陵に沿って道が見えるそうだ。
こっち側は茂みが途切れることはあっても道らしい道はない。それでもひと山越えて、やっと開けた場所に出てきた。
遠くに湖が小さく見える。その近くに豆粒のような家が肩を寄せ合っていた。
《村が見えるな》
《特に変わった様子はないですね》
蓮とラウールさんの通話を聞いてほっとする。なにもないなら安心だね。
《じゃあ、このまま進むの?》
《そうだな》
あたしの問いに蓮が答えた時だった。突然、湖に水柱が上がる。
《なんだ⁉》
《あそこは水竜の生息地だと思いましたが。彼らは気性も穏やかですし、治めている王もいらっしゃるので争いが起こることはないはずですが》
ラウールさんの説明を聞くと余計に不思議に思う。蓮が焦ったように語気を強めた。
《急ごう!》
ドラゴン達は速度を増す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます