デザートはまだですか

 会所に戻るとユリウスさんが弾かれたように顔を上げた。


「勇者様がお力を貸してくださったと聞いて、お戻りをお持ちしておりました。この度は本当にありがとうございました」

「いえ、少しでも力になれたのでしたらよかったです。ところで……」


 蓮は今回の件について話を聞きたい、とユリウスさんに申し入れた。


「でしたら、ひとまずお休みください。食事を用意させますのでお話はその後で」


 いつものあたしならここで、ご飯! ってなるんだけどさすがに疲れたなあ。ベッドに突っ伏すとそのまま意識を手放してしまった。



「つかさ様。起きられますか、つかさ様」

「う、うん……?」


 誰? なに? あ、この人……


「ノエルさん?」

「食事できたようですよ、行きませんか」


 それを聞いたあたしのお腹が賛成の声を上げた。


「ノエルさんがいてくれてよかったあ、ご飯抜きになるとこだったよ」

「ノエルでいいですよ。動きづめでしたもんね」

「うん、ノエルも大変だったでしょ、ゆっくり休めた?」

「はい」


 そんな話をしながら会所のロビーに向かう。

 改めて見回すと異世界ものの冒険者ギルドって雰囲気でわくわくするなあ。


 入ってすぐの受付カウンター、反対側は広くスペースが取られてて飲食できる。そんで、パーティに勧誘したり追放したりするんだよね! その辺で喧嘩になって女の子に止められて、ひとりビールかなんか飲んでる人に「若いねえ」なんて呆れられたりすんの。


「すみません、騒がしい所で。いつもこうなんですよ」


 いつもこう? ユリウスさんの声で我に返って見てみると、妄想通りのことが現場で起こっていた。ホントにあるんかい。

 こちらへ、と案内された個室は結構広い。真ん中の大きなテーブルからいい匂いがしてくる。わはあ、美味しそう。ちょっとお腹、静かにして。


「まずは皆様に感謝を」


 そう言ってユリウスさんがグラスを持ち上げた。

 後は……ごめん、蓮に任せるね。ご飯はあたしに任せてくれていいから。


「今回の件ですがこのような事態は本当に想定外でして」


 あ、前菜がある。かわいい盛り付け! 


「いえ、避難誘導や警備の編成など、俺のところでも学ぶべきことがたくさんありました」


 テリーヌも美味しいねえ。これ誰かこっちに伝えた人がいるのかな。


「そう言っていただけると訓練に力を入れた甲斐があります。やはり交易の中継地となっている以上、警備は必要ですから」


 おお、トマトの冷製スープ。あたしトマトスープちょっと苦手だけど、これはいいな。おかわりしたいくらい。


「このような大量の魔物発生は以前もあったのですか?」


 これ川魚なんだろうな。塩焼きだともっと美味しいかも。


「いえ、近隣でも聞いたことがありません。初めてです」


 あ、パンください。これ小麦の味が濃い感じで美味しい。


「魔物が多く発生することは全くないわけではないと思います。ただ、あの出現の仕方はおかしい」


 お、に、く、だー! これなんの肉だろう。ダークラビット? 兎なの? 魔物化したやつ⁉ えええ……食べられんの? え? 元は普通の野兎? へえ、魔素浴び続けると魔物化するんだ。魔物化したほうが美味しいの⁉ 不思議……あ、ホントだ美味しい。あっさりしてるのにすごいコクがある。


「この町の魔法使いは二人しかいません。ですが二人とも言っていました。まるで誰かが一挙に魔物を放出したように感じたと」

「なぜ、そんなことを……」


 それ魔王がやったんだよ、きっと。やあね、嫌がらせよ。

 だって魔素が集まって魔物になるんでしょ? きっと魔王も魔素集めてんのよ。そんで自分の力にすんの。魔物を魔素に還すのに自分でやんないで、こっちが倒すの待ってんのよ。嫌なやつう。絶対嫌な性格してるよね。


「……」

「あり得ない話じゃないですね」


 デザートまだかなあ。


「つかさ」

「ん?」

「ありがとな。俺達、難しく考えすぎてたかもしれない」


 なんのこと? お礼を言っときながら蓮の表情が微妙なのはなんで?


「つかさ様」


 ノエルの小さい声。


「半分以上、心の声出てます」

「うえっ⁉」


 早く教えてよ! やだもう……


「村に残っている者と話しましたが、あちらはまたゴブリンの襲撃があったと」


 ラウールさんが言う。


「そうなると他にもありそうだな。どうする」

「近くの町や村の様子を見ながらこのまま北に向かう」


 勇治さんと頷き合う蓮。


「出立は明日の朝ですか」


 ユリウスさんが蓮に聞いていた。蓮、どうすんのかな。


「そう、ですね。明日の朝一番で出ます」

「では、お使いの部屋でそのままお休みを。ごゆっくりなさってください」

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