ただそこにいるだけじゃなくて
「おい! 魔法使いに攻撃するように言ってくれ! 魔力を使って発散すれば酔いも醒める」
勇治さんの声が聞こえた。
「わかった! ラウール聞いたな」
蓮! よかった、無事だった。
上空で刀が日の光に反射する。大太刀は馬上で使うものって聞いたけど、確かにそうだと思う。ドラゴンの上から長さと重さで切り下ろす刃が確実に魔物を減らしていく。
「よっ!」
勇治さんは両手剣を魔物に叩き込む。二度三度と連撃を繰り出し不意にすっと体を沈めた。後ろからドラゴンが走り、刀が魔物を両断する。次の瞬間、魔物の群れに雷撃が落ちた。
いけない、気づいたらこんなに様子が見える所まで来てしまっていた。
「うう……蓮様? ここは……」
「後で説明する。まずはこいつらを倒す」
「わかりました。リンドヴルムを呼びましたので、あちらに移ります」
「向こうの魔物を頼む」
「承知しました」
悔しいな。なんであたしはただの人なんだろう。異世界って、なにかすごい力がもらえるとかじゃないの? 力があったら蓮の助けになれるのに。
上空でドラゴンが舞う。そのスピードと布都御魂剣の斬れ味は魔物を次々と倒していく。
「くそっ! 多いな」
「それでも後半分もいない。いける!」
「おお!」
そんな声が遠ざかる。足が、動かない。
「気にするな、と言っても気にするのだろうな」
「眞生さん」
まっすぐ戦いの場を見つめたまま、眞生さんが言った。
「貴様は良くやっている。貴様がいなければ救えなかった、そういう者もおるはずだ。己のできることをやれているのだ。胸を張れ」
「……ありがとう」
ちょっと涙が出そうになっちゃった。
あたし多分誰かに褒めてほしかったんだろうな。そこにいるだけじゃなくて、なにかをやり遂げたっていうのは、それがどんな小さなものでも自信になるもの。
矢の雨が降る。
剣が刺し貫く。
魔法が爆ぜる。
刀が両断する。
あれからまた長い時間戦っていたけれど、ようやく魔物の最後の一匹も倒れて魔素に還った。
魔物は魔素に還るけど、人間はそうはいかない。今だに救護所はごった返していた。
「ノエルさん、薬残ってますか?」
「はい、後ひとつ。ポーションもです」
「怪我の軽い人は後にしましょう」
「了解です」
バタバタと慌ただしいうちに皆が帰ってくる。
「つかさ、会所にいなかったのか? なにしてんだ」
あたしを見て蓮の顔が曇った。
ごめん、あたしもなにか手伝いたくて。ホントは会所にいてほしかったんだと思う。けど、できることすらしないのはなんか違うと思うの。
「救護所の手伝い。ごめん、会所で待つだけ、っていうのはできなかった。蓮は怪我してない?」
「ああ大丈夫だ……ありがとう、大変だけどがんばれよ」
「うん、先に戻ってて。後でノエルさんと一緒に行く」
乗せられた手の温かさだけで癒やされる。後少し、がんばろう。
傷口を洗って薬を塗り包帯を巻く。より治療が必要な人はポーションを使って町の魔法使いのところへ。よし、こっちも終わりが見えてきた。
「勇治様、眞生様」
ラウールさん? 動いてるあたしとノエルの後ろから聞こえてくる声が固い。
「な、なんだよ」
「私はあなた方のことを誤解していたようです。胡散臭い人達を連れて旅に出るなんてとんでもないと思っていました。蓮様の手助けをしてくださってありがとうございます。あの
深々と頭を下げるラウールさんを見て、あたしも手が止まっちゃったよ。
「いや、気にすんな。俺達にはよくあることだしな」
勇治さんは苦笑で返した。
でもラウールさんやっぱり警戒してたんだな。それをまんま言っちゃうとこは大人気ないっていうか……
「つかさ様? どうかなさいましたか」
「いえ! 何でもないです」
振り返ってこっちを見た笑顔がちょっと怖かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます