どらごんらいだぁ@Re/N

【たけちゃん@

 #異世界勇者

 (^o^)久しぶりに若いもんと話した!】

【ふーちゃん@

 おめでとー発言が爺さんぽいぞ笑】

【たけちゃん@

 爺言うなw爺だけどなwwすごい爺だけどなwww】


【俺は勇者@

 #異世界勇者

 近々動画上げます。もうちょい待ってて】

【転生勇者@

 楽しみにしてます】


 このハッシュタグがついてる呟きが大分増えてる気がする。

 たけちゃんって武甕槌命なのか? じゃ、このふーちゃんて人は誰なんだろう?


 そんな俺の横では風呂上がりにPC画面と格闘している勇者。

 ツーリング動画か……俺も動画サイトを覗いてみたけど、かなりの数の動画が上がってる。同じような動画に需要があるんだろうか。


「違う違う、一応この世界の一般向けにしてるけどそうじゃねえんだ」

 勇治さんにSNSの画面を見せられる。

「こっちに誘導したいんだ」


 #異世界勇者


「なんです? これ」

「ハッシュタグの意味はわかるだろ」

「関心ある情報を検索したり共有したいからつけるもの、ですよね」

「だな、基本はそうだ。けど、これに関しては本物の『異世界勇者』しか引っかからねえ」

「はい?」


 なに言ってるんだ?

 勇治さんは動画編集の手を止めて俺を見た。汗をかいたスポーツドリンクのペットボトルを掴む。


「ここの世界は勇者ネットワークのハブ基地みたいなもんらしいぞ」

「あの……意味わかんないんですが?」


 そりゃそうか、とペットボトルの中身を飲み干す勇治さんは困り顔だ。


「俺も偶然、仕事上のつき合いで教えてもらったんだ。『#異世界勇者』っていうタグは、なんやかんや連絡方法が変換されて最終的にここにたどり着く仕様っぽい」


 そう言ってスマホを指差す。


「魔法の詠唱みたいなもんなんだろうな。だからスマホもSNSのない世界からも届く。実際そういう世界の人ともこれをかいして取引したことがある。お前、向こうの世界でもスマホ使えただろ? システムの一環として、タグ使ってるやつのスマホは魔法機器って解釈されるらしいぞ」


 俺も商売がやりやすくて助かるわ、と勇治さんが笑う。

 待ってくれ。この人とつながった時点で異世界ってのがたくさんあるんだろうとは思ったけど。

 誰がこんなこと考えたんだ? なんの目的で?


「ま、世界の思惑なんていっかいの勇者の俺にはさっぱりわからんけど、使えるものなら便利に使わせてもらうさ」


 俺が首をひねってると、商売繁盛の神様なんじゃね? とケタケタ笑いながら勇治さんは編集作業に戻った。

 なるほど。なるほど? 全然わからんけど便利なのは確かだ。これ見つけなかったら俺らの世界はあまり生活水準上がらなかっただろうし……


「考えすぎるとハゲるぞ」

「ハゲません。そういう家系じゃないんで」


 笑いっぱなしの勇治さんは早くデータ送れと眞生さんをせっつく。


「あ、呼び捨てでいいぞ。俺らそんな歳変わんねえだろ? 蓮」

「わかったよ……勇治」


 ニッと笑って今度は座卓の上に身を乗り出して眞生さんをのぞき込んだ。


「おーい、できたんかよ?」

「うむ」


 眼鏡越しに爆速でキーボードを叩いていた眞生さんが短く応える。


「おっ! きたきた。で、これを入れてっと。よし、一発目はこんなもんだろ」



『どうも! はじめましての皆さんは、はじめまして! 勇者魔王商会、お客様担当の勇者です』


 そこから始まった動画は他愛ない通話を流したり乗ってるバイクを紹介したり、どこが変わっているというわけでもないんだけど。


『勇者といえば魔王討伐ですよね! 俺の方は完結してるんで、今回はもう一人の勇者のパーティにお邪魔してます』



 途中に妙なもんが挟まれてる。

 やってることそのままなのに、動画になるとそういうキャラ付けってことで納得してしまうな。


「よし、一発目ができれば後は魔人と竜人ドラゴニュートあたりに任せられるな」


 異世界魔族がスタッフ?


「あいつら結構優秀だぞ。サンプル動画一発できたし、後は材料渡すだけだからお前も気にしねえで調査続ければいい」


 映像も勝手に通信で送られるから自分も投げっぱなしだと笑う。

 勝手に送られるってどういう理屈だよ。


「これこれ、眞生が作ったやつ」


 直後に見せられた画面で疑問も飛んだ、ってか増えた、か?

 エンディングにRPG風のドット絵で現れる勇者A、村人A、魔法使い、勇者B、魔王のパーティ。


「は⁉」


 端から出てくるちっさいそいつらが『ゴブリンを倒した!』とか、『大玉メロンを拾った!』とか、ぽてぽて歩いてはファンファーレが鳴る。


「この程度なら問題ない」


 問題ない、ってこれ全部打ち込んで作ったのか? いやいや、なんか無料ソフトとかだよな。

 はー、どっちにしてもすっげえ。


「魔力でなんとかする、ってわけじゃないんだ」

「できなくはないがバグが発生する」


 そういうものなんだ……


「それより、我も呼び捨てでよいぞ」

「はい。はいっ⁉」

「ん」


 うっ……ちょっと怖い。名前を呼ぶのに緊張するんだよな。

 ああ、つかさの気持ちがわかるわ。


「わかった……眞生」

「うむ」


 満足気な声色でそう言って、少しだけ口の端を上げた。

 この人普段あんまり表情ないから、これだけで雰囲気が柔らかくなる。

 つかさが見たら倒れそうだ。ってか、違う世界にいってしまいそうな気がする。


 異世界勇者なんてタグに引き込まれるように手が伸びたのはいつだっただろう。


 それで知り合った人達はもう結構な人数になる。なんていうか、ここまでくると大抵のことは驚かなくなってきたぞ。

 たとえ日本神話の神様がSNSやってたとしても、魔王がRPG画面を作っていたとしても。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る