向かう先には神様が?(もう撮影開始するって)
出発早々、驚きが多くて
《北西方面は森林ばかりなので、北東に向かいたいと思います》
そっちの方にはいくつか集落があるからとラウールさんから連絡があった。あたし達もバイクを走らせている。六号線を北へ。
《状況はどうだ?》
《今のところ問題ありません。何かありましたらご連絡します。このまま北へ向かって下さい》
《わかった》
インカムに蓮とラウールさんの会話が入ってくる。
ラウールさんとの連絡は、通路を開閉する都合もあって向こうからだけになるみたいだけど、全員に情報が行き渡るのは話が早くていいよね。
会話を聞いていた勇治さんからも通話が入る。
《いやあ、ここまで来ると走ってる間は気持ちいいねえ》
《止まってると暑いですもんね》
早い時間に出たからそこそこ回避できたけど、やっぱり都内の渋滞にはつかまってしまう。そこを抜けて、だいぶ畑や田んぼが目立ってきた。
蓮の後を追うあたしの後ろから、勇治さんが深いブルーのバイクで追いかけてくる。
勇治さんが乗ってるやつ、あたしじゃ足をつこうとするとフラつくし前傾もキツいんだよね。足の長い人が羨ましいわ。でもカッコいいし早いし乗ってみたくはある。勇治さんも腰がヤバいとか言いながらも楽しそう。
眞生さんは魔王様? だからってわけじゃないんだけど力を抑えて静かに走ってるイメージがあったんだよね。なんかかっこよくない?
でさ、肌も白いし静かさからの連想で、なんとなく暑さに弱そうな印象で……ちょっと心配、っていうより気になったの。
《眞生さんは暑いのとか大丈夫なんですか》
《問題ない》
《うひゃあ!》
インカムに届いた眞生さんの声を聞いた瞬間、あたしは思わず妙な声を上げてしまった。
《どうした⁉》
蓮が驚いて聞き返してくる。
《ごめん! 何でもない。大丈夫》
《ほんとに大丈夫か? 何かあったらすぐ止まるから遠慮するなよ》
《うん、ありがとう》
言えない。あまりにもイケボだったからびっくりしたとか。
そういえば眞生さんの声まともに聞いたことなかったな。すんごい破壊力。
《眞生さんもごめんなさい》
《気にするな》
うわ、やっぱいい声だわ。こんな声を耳元で聞いてたらぞくぞくする。無口な人でよかったあ。
あたしが一人でわたわたしてる間にラウールさんの声が聞こえてきた。
《勇者様》
《どうした》
《おう! って俺じゃねえか》
蓮と勇治さんの声が被る。そっか、そりゃそうよね。
《あー、まぎらわしいから名前で呼んでくれ》
《失礼しました、蓮様。こちらは異常ありませんが、そちらはいかがですか》
《こっちも順調だ。もう少しで川を渡る》
二人の会話を聞きながら一応ナビを確認する。うん、大丈夫。
首都圏の水源になる大きな川を渡る。
初日だったし渋滞につかまりたくないし、ってことで早めの出発だったから、ペースはゆっくりだけど滑り出しは順調って感じかな。黒、赤、青、オレンジと次々に橋を渡り終える。
《では私は予定通り、聖樹様の里へ向かいます》
《了解、そっちの確認は頼んだ。俺達は
ラウールさんと蓮の通話に、なにやらワクワクする単語があったんですが!
《つかさ、危ないからそわそわすんな》
《わかってるわよ》
釘を刺された。
勇治さんの笑い声が聞こえる。
《勇治さん、眞生さん、もう少し走ると湖があるんでその辺で休憩します》
言ったきり通話が切れる。
んなああああ! 今は話してくれないってことかあ!
早く到着して話を聞きたい、そんな気持ちでスピード上げようとしたんだけど。蓮が前にいて無理だし、後ろは勇治さんがいるしで無茶な走り方はしたくてもさせてくれない。
《まあ、ゆっくり行こうぜ》
勇治さんってば! わかってるっての!
《それよりほら、天気も景色もいいぞ。楽しんだほうが得じゃね?》
はい、降参です。大人しく話してくれるまで待ってますう。ぐるるるる。
湖近くの道の駅にバイクが四台並ぶ。
休憩がてら軽く食事をとることにした、ん、だけど!
券売機の前でテンションが上がる。なに? 「
「ちょっと連絡が入った。先に食っててくれ」
蓮は食事の注文もそこそこに湖を見渡せるデッキに出ていく。
ご飯もだけど、さっきの話も聞きたくてうずうずしてるんですけど、お預けですか?
そんなあたしを見てた勇治さんが言った。
「ちょいと深刻そうかな?」
「どうでしょう。すぐに移動が必要になるような切羽詰まった感じはしないし」
むしろさっきの話の続きを連絡もらったんじゃないかな? なんて思ってるんだけど。
「ああ、そこは落ち着いてんだね」
あたしそんな感じで見られてたの? 軽く勇治さんを睨む。
「ごめんごめん、意外だなって思ってさ」
「もうっ! 意外で、すーみーまーせーんー」
茶化してくるからあたしも軽く返す。
おかげでだいぶ勇治さん達に慣れてきた。多分気を遣ってくれてるんだろうな。
なんだあ、いい人じゃん。最初に人見知りして警戒感MAX出してしまったのが申し訳なくなっちゃう。
蓮は戻ってくると寄りたい所があると言った。
鴨肉のバーガーを、もっきゅもっきゅ頬張りながら地図を出す。
「ここ行きたいんです」
「俺ら別行動でもいいぜ。近くで祭があるみたいだからそっち行ってきてもいいし」
勇治さんの返事は素早い。
あたしも地図を横目で見ながら、野菜がたっぷりの鯰バーガーにかぶりつく。ふうん、
「つかさ、お前どうする」
「一緒に行っていいの?」
「ああ、かまわないよ」
「じゃあ、あたしは蓮と一緒に行く」
はっ! そういえば。
カリッと揚げられた鯰の身とたっぷり野菜、ケチャップソースのコンボが決まってたせいで忘れてた。美味しいものはすべてを駆逐するわよねえ。
鯰⁉ って思うでしょ? これが臭みもなくて美味しいのよ……って違う違う。そうじゃなくて!
「ね、さっき言ってた聖樹様って?」
「大きな木の女神様のこと。この世界と俺のとこ位置関係が大体合うって言っただろ? あっちの聖樹の位置と合うのが鹿島なんだ。上手くいけば武器が手に入るかもしれない」
全部話すと長くなるからって、ざっくり話してくれたけど。ほんとにざっくりだよね! ほとんどわかんないわ。
「細かいことは宿に行ったら話すよ」
「そんなら用事が終わったらメッセージ入れてくれ。後で落ち合おう」
その言葉を残し、勇治さんは来た道を眞生さんと二人で戻っていく。それに手を振ってあたし達も道の駅を出た。
「で? どこまで行くの」
「
国宝ちょっと見にっていうノリでいいの? 建物自体も重要文化財だったっけ。
っていっても、
なんて思って鳥居をくぐった鹿島神宮。
さすがに
「お前、大丈夫か?」
「なに? そんな変な顔してる?」
「顔じゃなくて顔色だろ」
失礼ねっ。ってボケたのあたしか。
「あはは……いやあ、身が引き締まる空気よね」
体の中に一本芯が通る感じ。背筋が伸びるっていうか、圧はすごいけど気持ちがいい感じってわかるかなあ、霊感とかないけどそういう雰囲気を強く感じる。
こういう空気は嫌いじゃない。昔からお参りした後はいいことあったし神社仏閣は好きなんだ。
どうかこのツーリングが無事に楽しく続けられますように。それと、美味しいものがいっぱい食べられたら嬉しいなあ。
頭を上げて横を見ると、蓮はまだ目を閉じて祈っていた。
不意にふわりと風が通る。
人のざわめきが遠のいていく。
「よう、異世界の勇者。よく来たな」
誰?
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