第五章 デュナミスの少年
1. 神の分身
『ぎゃああぁ――目が、手がァ……!』
目の前の液晶TV画面から派手に悲鳴を上げる男の声がする。
――やっぱりさぁ、この展開正直エグくない?
未玲は思い出していた。何となく訪れると必ずルミナス一期視聴会議になっていた、友人桐子の部屋での会話。
――別にいいんじゃない。このくらいやらないと今の子は全然食いついてこないだろうからね。
――うは、きっつ。でもさ、やっぱ地上波でも深夜帯じゃないと、さすがに無理っぽ……あはは。
何を今さら。あたしたちは今、その問答無用の人気作である「ルミナス・コード」制作スタッフの真っ只中にいるんだ。だったら、やるとこまでやってやろうじゃない。そう思いながらも未玲は目の前の優男を見ると、げんなりした気分を払拭することができなかった。大体なんでコイツなんかと……。
そうは言っても現実問題、あたしはコイツと組む以外になさそうだ。どうやら福監督とはいえ、俄か雇われスタッフ? にしては、やれることは一応やれるようだし。そんなことより、ナミ……!
未玲の頭の中には今、旧友のナミがどこへ連れて行かれたのかということしか存在していなかった。正直言ってあの子は関係ない。なのに、なんで。本当ならこんなやつなんか蹴り飛ばして、今すぐナミを得体の知れない悪の手先どもから奪還しに行きたいんだが。
ナミ、あいつらの言うことなんか聞いちゃダメだからね……!
そうは思いながらも、どこかで未玲は我が身の無力さと言いようのない敗北感に苛まれていた。
「ってことで……ねえ、神代君聞いてる?」
はぁ? 思わずギロリと睨む未玲に相澤は律儀に怯んだ。あたしは今、最っ高に機嫌が悪いんだ。アンタはアンタでやりたいようにやればいいじゃん。どうせ仲介役の円城寺が間にいるんだろうし。
そうは言えど、さすがにそういうわけにもいかないようだった。メインシリーズ構成の円城寺冬華はナミを連れて、今さっきどこかに雲隠れしたばかりだ。総監督の竜崎もどこで油を売っているか分かったもんじゃない。
「……ていうかアンタおかしいと思わないの?――こんな御都合主義の見え見え展開、一体どこの馬鹿が食いつくと思ってるのさ」
「チッチッチ……神代未玲クン、世の腐のお友達を舐めて貰っちゃあ困るなあ」
ギク。思わず相澤の目の色が変わったのを見て取り、未玲は一寸身体を引いた。
確かにそうだ。目の前の相澤に言われるまでもなく、その実それは未玲自身が、ほんの数年前まで実感していたことだった。そう、あたしたち腐女子はストーリー展開とか、そんな表面的な、ああだこうだは言ってみればどうでもよかった。それより目の前に用意された素材を、どう自分なりに解釈し美味しく料理するかだ。そのためには、たとえルミナスが極悪人になろうと、瑠美那が男化しようと……まあ確かに瑣末なことと片付けるには、あまりに一ファンとしてどうかと思うけど。
……だから。
「――ところでアンタ、腐男子って噂ホントなの……?」
はあっと大きく溜息をついて立ち上がると、正直まともに話もしたくもない相手に向かって吐き捨てる。本来ならそれを肴に思いっきり冷笑を浴びせてやりたいところだが。だがしかし。
唐突にオタとしてのベクトルである、その方針を一八〇度方向転換してみせた驚愕の相澤はともかく、確かにあたしはあたしで……少なからず一歩引いたスタンスで現役腐女子らを俯瞰している今現在はともかく――過去の汚点だなんて、すっぱり笑い飛ばせられればよかったんだけど。
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました。ボクはその昔ナルシス相澤と呼ばれていましてねぇ……」
第一それ一体いつの昔の話だよ。それ以上、未玲はもう何も聞いていなかった。
そんなこんなで身も蓋もない、助監督とサブ脚本家の不毛な脚本会議は、たいして何の進展もないまま小一時間が経過した。どういうわけだか、こんなんでもまともに通るのが今時のアニメ制作会社の裏事情らしい。というか単にあたしをここに足止めしたかっただけじゃないのか? 今さらのように、そんな疑念が当然湧き起こってきてもしかたない。
ナミ……ナミ……ナミ……!
まるで絶望的なほど恋人を拉致され、半殺しの目にでも遭わされてしまったみたいだ。っていうか、だって実際そうだったらどうする。
そう考えると未玲は居ても立ってもいられなくなった。あぁもう、アンタほんとに何も知らないのっ。知ってて黙ってるんだったらタダじゃおかないからね!可哀想に相澤の首を絞めながら、ぶんぶん振る。だが気の毒なことに現場を取り仕切る実質下っ端の助監督は、実際、総監督らから何一つたいした事実を伝えられていないようだった。今やげっそりと情けなくも青菜のようにシナシナになって力なく首を横に振るばかり。
「あはは……神代……さ……も、う……カンベン」
とか言いながら、相手は結構それでも満更でもない様子なのが、どうにも気持ち悪い。
しかたがないので、相澤の首根っこを掴んでいた手をパッと唐突に離し一人思案する。そうだ、円城寺と裏で通じていそうな相手が一人いたっけ。何を隠そう、それはいかにも腰の低そうな小心者、制作進行の乙部晴之だった。
*
そういえば、瑠美那って一期ラストでは……。
狐につままれたような面持ちのまま、竜崎らと一緒に病院を後にしたあたし。なんだかルミナス・コード第一期の最後がよく思い出せない気がする。あんなに衝撃的なラストの展開だと思ってたはずなのに。というか、さっきまであたしは誰と話してたんだろう。何だか頭の奥で誰かが話しかけてきて。確か後光の差した背の高い――やべ。ルミナスの見過ぎだってば。
そういえば、ネットやら雑誌やらで散々話題に上っていたはずのそのラスト展開の感想云々すらも何一つ覚えてない。一体何がどうしたっていうんだろう。第一そのWEB他でいくらでも過去ログが抽出できる情報媒体の発達した今だけに、それができないはずはないのだが。なぜかそういうものを見る気も起きない。
今さらながら、さっきまでにこやかに談笑してた監督の竜崎氏や円城寺女史のことが、うっすら不気味に思えてくる。
ああそうか……!水澤ひとみ。
それについて結局、あの二人は何の説明も付け加えてくれなかった。ただ一言、『君が来てくれて、よかったよ』――そう別れ際に告げた竜崎氏のどうにも胡散臭い笑みが脳裏にこびりついて離れない。やっぱり絶対何かがおかしいよ、未玲。
そうだ、早く未玲に会わなくちゃ。携帯、携帯っと。
さっきまで病院内でマナーモードになっていた鞄の中の携帯に手を伸ばす。
……そして、数秒の呼び出し音の後。
『もしもし――ナミ!?』
相手の突拍子もない慌てふためいた取り乱し方に、こちらが驚く。
「未玲!」
『あんた、今までどこに行ってた……もとい、どこに連れてかれてたのさ!』
「未玲、よかった……」
それはこっちの台詞だよっ。そう噛み付くように言われて思わず度肝を抜く。確かにそれはそうかもしれない。決して離しちゃいけないと肝に銘じて思っていたその手を、いとも簡単に引き離されてしまったんだから。そもそもが、そのルミナス・コード自体があたしたち二人をこうして再び引き合わせてくれたという皮肉にも似た事実を、それでもあたしは信じたくなかった。
『……今どこにいる?』
どうでもいいから、早く落ち合おう。ふぅと安堵の溜息を大きくついてから、未玲は呟いた。
*
「ああ、そういえば。円城寺さん、今日は西宮医大病院に行かれるとかって言ってましたね」
……なんて口の軽いヤツ。正直こいつがルミナス・コードの制作進行をやってるんだから驚くわ。ま、そういうことは別段、関係ないのか。でも、そうは言っても――もしかしたら、こいつから何かの“秘密”を聞き出せるかもしれない。
秘密、か。あたしたち一体何の秘密を暴こうっていうんだろう。ルミナスはただの人気アニメ。それ以上でもそれ以下でもない。そしてそれに奇跡的にあたしたち二人が巻き込まれただけ。ただ怪しいのは、それがあまりにも唐突すぎる話だっていうことだけだ。第一あたしはともかく、ナミはほんとのズブの素人だよ。
あたしたちはただのオタク……だった。そう、あたしもナミもタダの。
相変わらず忙しない様子で去っていく乙部の後姿を見送りながら、未玲は一瞬物思いに耽っていたが、それも刹那、突然かかってきたTELに我に返り、慌てて手に取った携帯を思わず取り落とすところだった。
*
都内某所にある録音スタジオ。そこで彼は普段と何ら変わらぬ“仕事”を淡々とこなしていた。
『はい、テストもう一回ね』
「はい――」
背後のブースからマイク越しに音響監督の指示が下る。目の前のTV画面には、ところどころ省かれた真白な線画が映っている。それと手にした台本とを交互に見比べながら、タイミングを見計らう。既に台本の台詞は全て頭に入っていた。そして目の前で動いているはずの「彼の分身」が今どんなことを思っているのかも――。
“その瞬間”自分自身の呼吸が、そのままその「分身」に乗り移る。そうなればもう、手馴れたものだ。
――まるで、もう一人の自分を操っているみたいだな。
そんなことを、時折思う。
確かにその瞬間、彼は二次元の画面の向こうの世界にいた。演技そのものや声の出し方の幅さえ習得できれば、自分が発する声によって、どんな人間も演じられる。善人も犯罪者も男も女も。いや人間だけじゃない、作品によっては動物だって、そう宇宙人や超能力者にだって――この世にいるはずのないSFファンタジーの住人に瞬時になれるんだ。そう悪魔や神様だろうと……。
その瞬間、自分はいつだって自由になれた。それはまるで心身ともに自分自身を縛っている物理法則に、いとも簡単に逆らうようだった。変身……それは本当に快感を感じる瞬間だ。
だけど、“その作品”に参加していた半年間は別物だった。あれは一体何なんだ……なんだったんだ。
声優である自分が演じている、操っているのは、確かに目の前のVTR画面の中にしか存在しない二次元の存在だった。その平面の世界に描かれた、ただの色付きの線画。だが、それが一旦動き出すと何か別のものに豹変する。自分が演じているのに、自分が発する声で喋っているのに、全然自分じゃない感じがした。演じる、操る? 違う、まるで逆だ。
そう「操られている」――その瞬間、自分は自分ではなかった。自分自身であると認識している自我がどこかに消え、その時確かに彼は誰かに操られていた。収録自体が終わってからも金縛りのように一日中、自分でない見えない誰かに自分自身を乗っ取られていた。収録のある日は決まってそうだ。
恐怖……そうだ、あの半年間、自分自身を始終縛っていたのは、その得体の知れない恐怖そのものだった。何か目に見えない存在に、知らぬ間に自我を明け渡してしまう恐怖。だのに――。
『――はい、本番ラスト!』
「お疲れさまー」
瞬間、緊張の糸が切れたように、ドヤドヤというざわめきが周囲に広がる。
「やー今回、割とラクだったっすねー」
声優という仕事の本来の難易度にも拘らず、そんなあけすけな陽気な声をあげる某若手男優。そうだね、こんなのは、ほとんど楽なもんさ。あの時の異様な緊張感に比べれば……。
「だけどさ、水澤さん大丈夫かしらねぇ?」
「ちょっ、ばかっ」
「あ――ごめんなさい」
そう、水澤ひとみ。今では、この業界では禁句だった。特に声優仲間の間では、僕の目の前でその名を口にすることは。突然、失踪した僕の元恋人。彼女は文字通りの、若手人気女性声優だった。
明るく屈託のない性格そのもので、それが張りのあるトーンの高い声そのものにも現れていた。その実、実際役に入り込むと実力を発揮する。可愛いくて涙もろくて、切羽詰った瞬間の感情が雪崩れ込む迫真の演技には定評があった。彼女は僕の5つ年下の同じ事務所の後輩。だけどデビューするや否や、どんどん実力をつけていき、今時のアイドル声優よろしくアニメのアフレコだけじゃなくて歌やグラビア方面なんかにも積極的に進出するようになって、そして……。
運命の“あの作品”で共演するまでは、そのラストシーンを録り終えるまでは、彼女は絶頂の只中にいた。どうして……。
*
『斉藤さんちのリルベット』――要するに萌えアニメっていうのかな、世間的には。妖精リルベットが迷い込んだ、とある一家のドタバタコメディ。その斉藤家の長男役。ちなみにリルベットに恋する次男である主人公役が今喋ってた、若手声優の西河大吾君。ああ、一応付け加えれば。リルベット役には……当然のように水澤ひとみがキャスティングされてた。明るくて凛としていて、それでいて可愛げのある彼女の声は、実際どの作品でも引っ張りダコだった。
それが放送開始直前になって、ご覧の通り。リルベット役は彼女の同期である同じ事務所所属の若手声優、松宮彩奈に急遽変更。
「ねぇ西河君、篠崎さんの様子どう思う?」
「どうって、いつも通りじゃないんすか?」
母親役である妙齢の女性声優と西河大吾の囁き声が嫌でも耳に入る。割とよく声の通る声優同士の噂話だからってわけじゃないだろうけど、全然丸聴こえだよ。
「まぁここんとこ、ある意味リハビリっぽいカンジはしますけどね」
ああ、そうだね。リハビリ。確かにそんな感じだ。あれから色々あって、しばらく休業。でもやっぱり声優として食ってくためには、そうそう遊んでもられないから、ようやく決まったレギュラーの脇役で無事現場復帰。でも、どうなんだろ、実際……。
声優、篠崎
「ね、実際どうなのかしらね、水澤さん……」
もう、その話題はいい。
「なんか変な宗教にハマってたって噂もあるみたいっすよ」
そんな噂、勝手に流すなよ。
「えーやばいんじゃないの、それ」
やばいのは、あんたらの方だろ。
「あと
おい、そんなわけあるか……っ!
「じゃ案外、自殺……」
――グシャ!
思わず膝の上に広げていた台本の一ページを握り潰していた。
……もう、いいよ。
諦めたように一人席を立つ。本日の収録は無事終了。早く開放されたい。そう思いながらスタジオを後にする。午後の日差しがやけに明るく、それまでビルの地下にある薄暗いスタジオに缶詰めにされていた自分を白々しく出迎える。
*
どうやら「ルミナス・コード」の続編は当然のことのように、あるらしい。そんな悪夢のような噂をどこかで耳にした。まさか、そんなわけ……ああ、そうか。別に俺じゃなくたっていいのか。そうだ、別にひとみでなくたって――。
少し前までは、そんな風に単純に考えていた。でも、あの作品だけは「特別」だった。いや単にアニメ界で一世を風靡した人気作だからってことだけじゃなく。作品自体が生きている、そう登場人物、架空のキャラクターが命を持っている? 冗談じゃない、馬鹿馬鹿しい。もしそれが本当だとしたら、それは声に命を吹き込むと言われてる俺たち声優の仕事だろ。だけど、そうだとしても、自分はもう無理だ。あの作品に関わるのは金輪際ごめんだ。もし続編があったとしても、ルミナスには別の誰かが声を当てる。それでいいじゃないか……。
だけど、その日かかってきたTELによって全てが暗転した。
「はい、篠崎です」
『――やぁ久しぶりだね、篠崎君』
久しぶりに聞くその声が、まるで悪魔の囁きのように聞こえた。
だから、何度事務所を通してくれって……。新しい携帯番号教えたの誰だよ。
『今日は折り入って頼みがあってね……実は君に会って欲しい子がいるんだけど』
水澤ひとみ――まさか……!?
『……の、代わりというか、何というか』
「――僕にもう一度ルミナスを演れっていうんですか? 竜崎さん」
んーまあ、そんなとこかな。やめてください、唐突にすぐさまそう言い掛けるも、ふいに言葉に詰まる。……もしかしたら。
僕が承諾したら、水澤君の居所を教えてくれますか。押し殺したような低い声でそう訊ねると、相手は若干言葉を濁しながらも、うん、まぁそうだね――そう、はっきり答えた。
「わかりました」
硬い表情で携帯端末を握り締めながら搾り出すようにそう答えた瞬間、脳裏に変わらぬ恋人のくすぐったい笑顔が浮かんで消えた。
……要するにそれが一ヶ月前の話。その後あれよあれよという間に。イベント会場で再会したひとみは、そう、以前と変わらぬその笑顔で僕を出迎えた。
*
――やっぱりダメだったな。
神代君から採取したエネルゲイアは本物だったが、所詮借り物でしかなかった。それでも、たった一日ステージに立てただけでも、まだよい方だった。そんなことを話していた一ヶ月前がまるで嘘のようだ。
「天然、てことかしら。要するに」
円城寺冬華は、あたし伊勢崎ナミのぽわんとした表情を思い浮かべながら、クスリと笑った。
「だが既に問題はクリアしたも同然だ」
ほんの一瞬、接触しただけで、あれだけの適正を見せた。その瞬間から全てが決定事項へと、すんなり移行していったのだ。
先日あたしが某大学病院地下で出遭った某人物。そう、若手女性声優の水澤ひとみ。あれから彼女が人工呼吸器に頼らず文字通り息を吹き返した、なんて事実、当然あたしは全然知らなかった。でもそれは事実なのだ。そう、その事実が、これから始まる“偽りの関係”を生むことになるなんて……。
「第一話の収録には間に合わせるつもりです」
総監督、竜崎の無言の視線に応えるように円城寺は告げた。
そう。続編であるルミナス・コード第二期、その第一話。そのためにあたしたちは、このネプチューンの竜崎、円城寺を軸として、ここに集められた。神代未玲、相澤太一、篠崎聡己、水澤ひとみ、そして伊勢崎ナミ……。
「水澤君のコンディションが整いさえすれば、すぐにでも、か――」
そのための良質のデュナミスですから。円城寺がはっきりと、そう言った。デュナミス――ある意味このルミナス・コードの物語の横糸とも言えるキーアイテム。想いの力。可能性を意味するそのギリシャ語の概念は、想念とも取れる異様な真実味を持って解りやすく本作の主軸テーマを支えていた。
「篠崎君には、私から連絡しておきます……水澤さんが“目を醒ました”ってこと」
それはある意味で残酷な報告だった。いや、もう既に水澤ひとみは彼の中で目を醒ましていた。というより、しばらく昏睡状態に陥っていたことすら、彼は知らされていなかった。ただ久方ぶりに逢った恋人とほんの一ヶ月間会えなかっただけなのだ。
そして再び彼と彼女は本作「ルミナス・コード」で主人公の瑠美那とルミナス役として再会する。いいえ、本当は瑠美那を演じるのは水澤ひとみではない。篠崎聡己と恋仲になる伊勢崎ナミ。所詮、水澤は彼女の意識の容れ物でしかない。
「そこまで周到なシナリオを用意してくれたのはありがたいが……」
本当に上手くいくのか。ええ、上手くいくはずです。その妙に確信めいた円城寺の異様な瞳の色に、思わずぞっとしないものを感じて竜崎は肩をすくめる。
「ルミナスの御魂が二人を繋ぐなら――“彼女”は瑠美那になる。それに篠崎君はきっと応えてくれるはず。水澤ひとみの魂を取り戻すためにもね」
それってつまり……。
お人よしルミナス君に伊勢崎君を誘惑しろってことになるのかね。その真意を知り、いよいよ竜崎は苦笑いする。こりゃ文字通り泥沼確定だな。その中に純真無垢な彼女を放り込むのは、いささか気が引けるが……。
今さら躊躇することなどない。それだけが彼らの真実だった。
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