見習い魔女外へ出る

第1話

 干し終えた薬草の出来栄えは完璧。これだけあれば頼まれていたお薬はあちらでも出来そう。


『ねぇ、やっぱりオルディナの帰りを待とうよー』

「あらダメよ、そんなこと。お師匠さまは次の次の、そのまた次の満月までは帰ってこれないって。手紙のお相手も待ちくたびれちゃうわ」


 荷物は軽い方が良いから、空の薬瓶に薬草を束ごと詰めちゃおう。調合セットは調理器具を……ああ、大鍋は借りられるのかしら。

 本当は使い慣れたものが良いのだけれど、この際高級品でも構わないわ。贅沢――もとい、質素なこと言っていられないものね。


『じゃあせめて一言だけでも連絡入れなよ』

「それもダメ。今回は秘密のお仕事だから、ほんとうに大事な時以外は連絡しちゃいけないって」

『一大事なんじゃないかなぁ。むしろ今こそ、ってかんじじゃな……ってわぁ?!』


 最後に彼をよいしょ、と背負い、固定するように肩掛け鞄の紐を調整すれば出来上がり。


「うーん、やっぱりどうしても大荷物だわ」

『なら、いっそのこと行くの止めない?』

「わかった! おまえを置いていけばいいのね!」

『ごめんなさいっ!!』


 まぁ、少し重たいけれど遠出だもの仕方ないわ。


「あ、鏡ないのだったわ」

『もうイデアの荷物だからね 』


 おろしたてのローブが変じゃないか確認したかったのだけれど、それも仕方ない。帽子は勘で被るしかない。


「しばらく帰れないから、戸締まりはしっかりしないとね」


 留守番わたしもお留守だから、扉にcloseおやすみの札をかける。

 代替わりを終えた千年樹を、リフォームした私たちのお家。

 天にも届いてしまいそうな高さのそれは、苔や蔦が絡み合い果てが見えない。

 逆をいえば高すぎて、落雷なんかも受けてしまうものだから、生活として使えるのは2階分だけだと、お師匠さまは言っていた。

 でも、お師匠さまは時々上へと登るし、下りていらっしゃるお客さんもいる。

 子供のときから今でも、秘密がいっぱいのそんなお家がわたしは大好きだ。


「……いってきます!」


 カチャン、カチャンと扉と言う扉が閉まる。周りを囲む木々たちは大きく枝を伸ばして絡み合い、わっさわさと葉が隙間という隙間を隠す。

 緑に包み込まれたそこに、私たちのお家は見当たらない。


「さぁ! それじゃしゅっぱーつ!」


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