第2話
それが 物語の始まり 少年は旅立つ きっかけはいつだって 日々と夢の境目
それが 物語の始まり 少年は旅立つ 冒険はいつだって 日々と夢の懸け橋
これが 物語の始まり 少年は旅立つ
「自分の旅立ちを自分で歌うのか」
ハープを奏でる若者に、次兄はぽつりとそれだけ洩らした。馬鹿にするでも、呆れるでもなく、ただそれだけを洩らす兄に、ヘラは、にこりと微笑みを返す。
「歌うために旅立つからね。 大丈夫、ちゃんと帰ってきたらそれも歌うから」
気遣うような弟の言葉に、次兄は顔を俯かせた。その気遣いが嬉しくもあり、反対に、旅立つという強い意思に触れた気がして、悲しくもあり。
「ああ、行っちまえよ、お前なんか。 っちぇ、兄貴の面倒は俺に押し付けやがって」
すっかり膨れたリュックを、乱暴にならないよう足先でつつく兄を見て、ヘラは少しの間笑みを潜めた。
静かになったヘラに、もう一度だけ、目を合わせる。
ゆっくりと口を開いたヘラは、先程までの旋律を、再び紡ぎ出した。
「少年は 旅立つ」
歌われた一節。ヘラが自分を待ってることに気付いた次兄が、続きを引き継ぐ。
「……そうだ 物語の始まり」
「うん。 行ってきます、兄さん」
もう一度、しっかりとした明るい笑みでそう言ったヘラに、次兄は苦笑するしかなかった。
「……ああ、気を付けてな」
「うん!」
晴れた日和。
一歩を踏み出す若者の体は、これからの旅が不安になるほど細く見える。家族の愛が詰まった旅用の鞄を、けれどしっかりと背負って、ヘラの旅は始まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます