第2話

それが 物語の始まり 少年は旅立つ きっかけはいつだって 日々と夢の境目

それが 物語の始まり 少年は旅立つ 冒険はいつだって 日々と夢の懸け橋

これが 物語の始まり 少年は旅立つ


「自分の旅立ちを自分で歌うのか」

 ハープを奏でる若者に、次兄はぽつりとそれだけ洩らした。馬鹿にするでも、呆れるでもなく、ただそれだけを洩らす兄に、ヘラは、にこりと微笑みを返す。

「歌うために旅立つからね。 大丈夫、ちゃんと帰ってきたらそれも歌うから」

 気遣うような弟の言葉に、次兄は顔を俯かせた。その気遣いが嬉しくもあり、反対に、旅立つという強い意思に触れた気がして、悲しくもあり。

「ああ、行っちまえよ、お前なんか。 っちぇ、兄貴の面倒は俺に押し付けやがって」

 すっかり膨れたリュックを、乱暴にならないよう足先でつつく兄を見て、ヘラは少しの間笑みを潜めた。

 静かになったヘラに、もう一度だけ、目を合わせる。

 ゆっくりと口を開いたヘラは、先程までの旋律を、再び紡ぎ出した。

「少年は 旅立つ」

 歌われた一節。ヘラが自分を待ってることに気付いた次兄が、続きを引き継ぐ。

「……そうだ 物語の始まり」

「うん。 行ってきます、兄さん」

 もう一度、しっかりとした明るい笑みでそう言ったヘラに、次兄は苦笑するしかなかった。

「……ああ、気を付けてな」

「うん!」

 晴れた日和。

 一歩を踏み出す若者の体は、これからの旅が不安になるほど細く見える。家族の愛が詰まった旅用の鞄を、けれどしっかりと背負って、ヘラの旅は始まったのだった。

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