fragment.03 『World Over ―デスゲームがはじまり半年が過ぎました―』

 途切れることなく連なり続くノイズ音。

 時折世界に響くように現れるその音は、この世界が実は作り物なのだと、雄弁に訴えかけてきているように――彼らは思っていた。


「それはさておき、新たな問題が産まれてしまった」


 寝起きでぼうっとした頭のまま、スノウは考えた。

 そう――スノウ、だ。

 ユキではない。

 いや、スノウも日本語に翻訳すれば「雪」だけれども、その音自体は「ユキ」にはならない。

 今までの共通項は名前、もしくはよく呼ばれる愛称的なものの音が「ユキ」と読まれる、というものだった。多少――どころではなく強引な所もあったけれども、性格すらもなんとなく違うように感じるの中で、確かに言える共通した部分は『ユキ』という呼び名だったのだ。たぶん、それはおそらく副次的なものなのだろうけれども。

 いつかのどこかで誰かの『ユキ』が言っていた言葉がある。


「名前とは世界に存在を刻むための楔である」


 いつのどこでどの『ユキ』が言った言葉なのかは覚えていない。

 ただ、相当に古い言葉で、ゆえに大切に『ユキ』の中に刻まれている言葉なのだと思っている。

 もしかしたら、どこかにいるのかいないのかもわからない、原初の『ユキ』――オリジナルの言葉なのかもしれない。


 オリジナル――?


 どうしてそんな奇妙な発想が出てきたのかとスノウは疑問に思う。

 唐突に、頭の中に当たり前のようにその発想は生まれた。

 どこかに、すべての『ユキ』の由来となるオリジナルがいるという発想。

 根拠も何も無く、唐突に出てきた発想なのだが、なぜかそれをスノウは当たり前のように感じ、無視できない。

 半分寝惚けたまま、スノウはくらくらと頭を振った。

 振れば積み上げられた思考の積み木が崩れて、一瞬自分が何を考えているのかわからなくなった。

 するともう、戻れない。

 当たり前のように感じていたオリジナル・ユキが存在するという発想は、どこかへ崩れていった。

 残ったのは「スノウ」であるはずの自分もまた「ユキ」であるという疑問だけだ。

 今回は「ユキ」という音にはならない。

 一部の例外を除いて、この世界でスノウは、そう呼ばれたことはない。

 今回のは、変則的な例外だろうか。


「いや、考えるのはそこじゃないだろう」


 頭を振って体を起こす。

 ぎしりと座っていた椅子が、鈍い音を出す。

 ああ、また寝落ちしていたみたいだ。

 そう思って手元を見ると、描きかけの魔法符の上にミミズが這った痕のような線が描かれていた。半分寝ながら魔法符を作成していたので、ちゃんと形にならずに訳のわからない状態になってしまっている。

 この魔法符はもう使い物にならない。単純な書き損じなのだが、半分は中途半端に精巧にできてしまっているがために、下手にこの魔法符になり損なった札に魔力を流せば、どんな暴発が起きてどんな事故に繋がるかわからない。産業廃棄物ではないけれども、処分には慎重を期する必要があった。

 まあでも、それは丁寧に処理すれば何の問題もないことだ。面倒だけれども。魔法符の原紙自体の金額は大したものではない。原紙は。


「ああ、やっちまった」


 スノウは額を抑えてため息を吐く。

 手に握ったままの羽根ペン。長い間紙に抑え付けていたせいか、ペン先が若干つぶれているように見える。そして、蓋をせずに開けっ放しのインク壜。

 使いやすいように小さな壜に収めていた中のインクは、見た目こそ何も変わっていないが、蓋を開けっ放しにしていたために中の魔力がすっかり蒸散してしまっていた。

 そんなに大した量じゃない。

 そんなに日持ちするものじゃないからストックはそれほどないけれども、インクの材料はたくさんあるので、小一時間もあればすぐに作ることができる。

 けれども小さな壜のインクでも、それを使えばあと何枚の魔法符が作れたか、そしてその魔法符を売って得られる稼ぎがいくらになったか。そう考えるとひどく勿体ないことをしてしまった気分になる。

 直接の金銭的なダメージは軽度とは言えども、塵が積もれば山となるではないが、何度も繰り返していれば馬鹿にならない。インクのこともそうだが、羽根ペンのダメージは地味に大きい。スノウがしている作業は特に精密な、細密なものだ。ほんのわずかなペン先のつぶれがその作業の難易度を遥かに跳ね上げさせる。どうにかしなければと、そろそろ真剣に対策を考えた方が良いのかもしれない。

 そういえばつい最近、生産ギルドのひとつが万年筆を開発したらしいとの噂をスノウは思い出した。

 アレならばインクの交換もできるし、スノウが使っているような魔力が込められた特殊なインクにも、おそらく対応できるだろう。

 たぶん、多少の実験は必要だろうけれども。


 軽く机の上を片付けて、部屋を出る。仕事場となっている書斎から出ると、すぐにカウンターがあり、閑散とした人気の無い店が広がっている。カウンターの隅の水道で顔を洗うとスノウは店の入り口から外に出て行く。

 裏通りはつんと澄んだ朝の冷たい空気に包まれていた。

 うっすらと霧に包まれていて、まだ陽が昇り、間もない時間だとわかる。

 大きく伸びをして、深呼吸をする。

 同時に、今はと、そんな思考が頭を過ぎる。

 確か、前の前の前辺りの世界にいた時に、正午のチャイムを聞いた記憶がある。

 それから碧凪ミオと会って、唯識澪と出会い、清海友樹と旧交を温めたので、だいたい二、三時間くらい。というと今は早朝に見せ掛けて、現実世界では午後三時くらいなのだろうか。

 この仮想現実世界「Al ce'teoiアル・セ・テワ」は現実世界とは時間の流れが違う。具体的にどれくらい違うのかは、比較対象となるべき現実世界の観測が現時点では不可能なため、今のスノウに知る術はない。この世界がVRMMORPG『World Over』として運営されていた当初から、時間の流れについては細かく変動があったため、よくわからない。平均して現実世界のおよそ四倍で動いている、なんてことを、何かで耳にした記憶はあったし、たぶんその倍率は概ね正しいのだと、経験則からもある程度の実感はあった。


 ――もうおわかりであろう。


 スノウは――キャラネーム『スノウ』をはじめとした『World Over』のプレイヤーたちは、現在、仮想現実世界『Al ce'teoiアル・セ・テワ』に閉じ込められている。

 もう、閉じ込められて、ゲーム内時間に於いて五ヶ月が経過している。

 ついでに言えば閉じ込められた時から段階的にゲーム的なシステムが消えていき、プレイヤーの不死性も消滅が確認された。

 プレイヤーの不死性。

 つまり、死亡すれば拠点に戻り、レベル低下などのペナルティを受けて復活するという、いわゆる『死に戻り』システムの消滅だ。

 ええと、何が言いたいのかと言えば。

 この世界は今、デスゲームの真っ最中なのである。


 さて、それを踏まえて、ここで問題だ。


 はたして、今、スノウは、起きているのか寝ているのか?


 仮想世界『Al ce'teoiアル・セ・テワ』内でスノウは今、起きている。

 起きたからこそ、夢を介して世界を渡っている『ユキ』の意識は今、スノウに宿っているのだろう。

 だが現実世界のスノウの本体――朽木夕樹くつきゆきは、一体どうなっているのか。

 推測しかできないけれども、おそらく正しいだろうと思われる回答は、当然ながらあった。

 仮想現実世界『Al ce'teoiアル・セ・テワ』に意識を送り込むための装置――『F-Chair』に横たわって、眠っているのだ。

 たぶんきっと。


 

 まさしく今、これは正しくその状態だった。


「おや、スノウさん、早いですね」


 背後から声を掛けられたスノウはゆっくりと振り向いた。

 見ると、散歩をしていたのだろうか。顔馴染みの老人が杖をつきながらのんびりと通りを歩いて向かってきていた。杖をついているのだが、その足取りは確りしていて、見た目は老人なのだが体格もスノウよりよほど立派で、まだ十二分に現役なのだと伺える。明らかにただ者ではないオーラを出している老人なのだが、スノウは『マフィ老』という呼称しか知らない。商店街を歩いていたら時々見かける老人で、たぶん、自警団めいた見回りをしているのだろうなとなんとなく想像している。それ以上の推察は、何だかやぶ蛇のような気配がしていて、あえて突っ込まないようにしているのだけれども。


「おはようございます。マフィ老。いえ、実は作業に夢中になっていて、家に帰りそびれてしまいまして……」

「ほう、それはいけませんな。お仲間も心配してるんじゃありません?」


 言われてスノウはちらりと手元を見る。

 そこには今、。けれどもつい先日まで、その位置にはメールの着信を知らせるアイコンが浮いていた。宙空に。ゲーム的なシステムが徐々に消去されていく中で、チャットシステムは比較的早々に無くなったのだが、メールシステムはなかなか消えることがなかった。それが消えたのは、ほんの一週間前。だからついついメッセージが来ていないか、今でも反射的に視線を向けてしまう。


「いえ、僕が店に寝泊まりすることはわりとよくあることなんで、誰も気にしていないと思いますよ?」

「ほほほっ、そうですかのぉ?」


 実際その通りだと思う。

 スノウが『家』と呼んでいるのは、王都ナージェの北方の高原地帯にある、スノウが所属するギルド『夜明けの放浪者』の拠点、ギルドハウスのことである。普通に移動すれば半日以上掛かる場所にあったりして、王都にある店に通うには適した場所とはとても言えない。『家』と言うのは方便であって、正確なものではない。店の、作業場の奥には仮眠室のような寝泊まりのできるスペースもあり、生活するのに不便はほとんど無い。この世界に閉じ込められた当初の混乱期は兎も角、五ヶ月も経った今となっては、数日連絡が取れない程度ではもう仲間の誰も気にしない。半分以上スノウはこの店――魔法符屋『Crescent Rose』に住んでいるようなものだった。

 だと言うのにマフィ老に対して、通っている風なことを言ってしまったのは、家族がいる風を装った見栄のようなものだった。何だろう。プレイヤーではないこの世界に住人たちに対して、こう、普通に暮らしている風な見栄を張ってしまうのは。たぶん真っ当にこの世界で生きているNPCたちに対して、どうしてもゲーム感覚が抜けきれない罪悪感のようなものがあるんだろうなと自己分析してみたりする。


「それよりマフィ老も朝早くから出てらっしゃるんですね?」


 何だかそれ以上話題を引っ張られると拙いような気がして、スノウは話題をそらした。


「うむ。これが趣味じゃからの」


 鷹揚にマフィ老は満足げにうなずいた。

 それから当たり障りのない話題にどうにか落ち着いて、しばらく王都付近で起こっている色々な出来事に対する情報交換めいたことをして、マフィ老は去っていった。

 話が尽きたと言うよりも、陽が昇り、少し人通りも増えてきたことから、どうやらマフィ老はそれらを避けている風な感じだった。

 まあ、たぶんマフィ老はそれなりに有名人なご隠居さんで、水戸黄門的なことをこっそりと愉しんでいるので、そろそろ人通りも多くなって警備士の巡回が始まるので、見つかって正体がばれるのを避けたのだろう――なんて、テンプレめいたことを考えてみる。そういえば魔法王国ナージェのトップである魔導院九席の内、光と火の席に付いている、実質この国の最高の魔法使いの名前が確か『マフィレス』とか言ったな、と記憶を探り出してみる。

 うん、真実かどうかわからないフラグめいた思考を頭の中で転がしてみながら、スノウは店の開店準備を始める。

 正確な時間はわからないけれども、たぶんいつもより少し早い時間。

 アルバイトNPCも出勤して来るのはまだ先の話だろう。

 シャッターを開けると、店の中に光が入ってくる。

 看板は『準備中』のまま、店の裏の倉庫から掃除道具を取り出して、店内の掃除を始める。

 同時にカウンターの隅にあるキッチンで、ヤカンに水を入れ、発熱の魔法符を仕込んだ『コンロ』を利用して湯を沸かす。

 スノウはこの世界で魔法符屋『Crescent Rose』を運営している。

 文字通り『魔法符』を売る店なのだが、最近は軽い軽食なんかも作って提供している。

 魔法符とは、魔力を持ったものならば誰でも使うことの出来る、魔法の込められたカードのことだ。

 スノウの取得している『スキル』の内、付与魔術エンチャントを使い、特殊な紙に特殊なインクを利用して作成する。

 スノウは冒険者としての、MMORPG的な立場としての役割は、支援系魔法使いになるのだけれども、やっていることは生産職に近かったりもする。元々は仲間と共に色んなところを冒険して旅することで、このゲームを楽しんでいたのだが、仲間内で設定していたを七ヶ月ほど前に達成してしまってから冒険から少し遠ざかってしまった。暇になり、新たな目的もなかなか見つからない中、暇潰しの一環として魔法符屋をはじめたのだった。

 幸い、コネとかもあって、大手ギルドの定期購入とかもあって、魔法符屋の運営は順調である。

 その為に、素材調達以外にはほとんど王都を出ることが無くなってしまった。

 つまり、デスゲーム攻略に向けて最前線では戦っていないということなのである。


「立ち位置的には、どう考えても主人公じゃないよなぁ」


 冒険者組合ユニオンがどこか謎の南方から仕入れてきているというコーヒー豆を使ってコーヒーを煎れる。

 王都に住むNPCにはまだそれほど広まってはいないが、プレイヤーたちにはわりと評判で、朝からコーヒー目当てに店を訪れる客も多い。

 魔法符十枚セットにつき一枚『コーヒー無料券』をプレゼントしているので、売り上げにもそれなりに貢献している。ついでにとフライパンを取り出してベーコンを焼いたり、ゆで卵を切って、マヨネーズと和えてたまごサラダを作ったりする。食パンをスライスして、半分に切って、約十人分の朝食の準備をする。

 だいぶ時間は早いと思い、しかし、現実世界ではおそらく三時すぎなわけで、朝食なのに間食のような――でも感覚的にはやっぱり朝食で、しかしこの空腹感は一体何なんだろうかと首を傾げたりして。

 しかしこうして、この世界に於いての主人公が誰だとか考えるのは、午前中に通り過ぎた何だか巨大ロボットアニメの世界みたいな夢の時も思ったけれども、世界を客観視できているから何だろうなと思った。

 その世界に住んでいる者からすれば、世界の主人公が誰であろうとも生きているのは自分なのだから、そんなの関係はない。

 こうして変な第三者的な思考が出てくるのは、今の自分がいずれこの世界を通り過ぎていき、この世界の問題に何ら関わりになることができないと、わかっているからなのだろう。


 今、この世界である問題が、はたして何かだって?


 それは明白だ。

 ゲームの中であるはずのこの『World Over』の世界から抜け出して、現実世界へと帰還することだ。

 物語とすれば、どう考えてもそれがゴールだろう。

 スノウは今、その流れに主体的には関わっていない。

 ギルドメンバーの中には最前線のグランドクエスト攻略に関わっている者もいるし、お店で抱えている顧客の中にはいわゆる『攻略組』と呼ばれる大手ギルドもある。けれども、あくまでもスノウ自身は、最前線に立っていない。

 デスゲームが始まった当初ならばまだしも店を開いてから七ヶ月が過ぎ、それだけ最前線から離れてしまっては、たぶんおそらくもうその流れに乗ることはできないだろう。


「……そのわりには妙にフラグめいたものに関わる率が高いように思うのだけれども」


 思い当たるあれやこれや。全部を正直に表に出してしまえば、大混乱必至というか、世界観が根底から崩れるというか。荒唐無稽というか、誇大妄想というか。うん、そういった危ないネタをスノウは、実は抱えている。

 早朝、散歩しているマフィ老が実はこの魔法王国ナージェのトップである賢者マフィレスなのである――とかいうネタなんて、まだ可愛らしいものだ。

 例えば、仮想世界『Al ce'teoiアル・セ・テワ』を創りだした人間を超えた知性を持つという三体の機械知性体Machine Intelligenceのうち一体、光花総合科学研究所が創り出した特A級機械知性体『シェム』とリアルで面識がある――と言うのは、このデスゲームを始めた犯人と知り合いであるという事実にほぼ等しい。

 そして仮想世界『Al ce'teoiアル・セ・テワ』内にVRMMORPG『World Over』のシステムを組み込むために働いていた、通常のゲームに於けるGM(ゲームマスター)に該当するA級機械知性体たちが、まだこの世界にいて、一緒に閉じ込められている――という事実を隠しているのは、犯人を匿っていると見られてもおかしくない。

 たぶんこの世界に閉じ込められたプレイヤーたちの中で、おそらくスノウしか知らない事実を、たくさん抱えている。

 ギルドメンバーには主人公になれそうでなれない感じの友人もいるし。たぶんメインヒロイン候補だろって感じの仲間もいる。

 ついでに言えばそのメインヒロイン候補ってのは、この世界に於ける『ミオ』の実妹だったりもして。

 そうしてこの世界に於いてもスノウはやはり『ミオ』――もとい、キャラクター名『サクラ』、本名『弓槻美桜ゆづきみお』とは親友同士だったりする。

 最も、サクラとはデスゲームが開始されて以来、物理的な問題で生き別れになり、半年が経った今でも会えてないんだけれども。


「生きてるのかねぇ?」


 ぼんやりと他人事のように遠くを見てしまうのは、やはり夢を渡ってスノウに宿った『ユキ』の意識のせいなのだろうか。

 少なくとも、普段はこんな風にこの世界を客観視して見ることはないし、冷静に語れることでもない。

 本当は、自分ひとりしか知らない事実を抱えていることがとても恐ろしいし、できれば誰かに話して秘密を共有させてしまいたい。そしてできればその話す相手は彼女――ミオが良い。

 そう感じる想いは、はたしてスノウ自身の想いなのか、それとも様々な夢を渡って、その都度『ミオ』と親友であり続けて来た『ユキ』の想いなのだろうか。

 たぶんきっと後者なのだろう。

 そして『ユキ』が去れば、そんな想いは夢で寝惚けた程度の妄言として片付けられ、スノウは忘れ、日常に、非日常に、還っていくのだろう。


 そんなことを思い、スノウは目を閉じた。


 からんころんと、乾いた音を立てて陶器の鈴が音を鳴らし、店の扉が開く。

 軽やかな足取りで入ってくる少女がいる。


「てんちょ-! おっはよーございまっす!」


 元気な挨拶にスノウは軽く頭を振って、顔を起こす。

 いつもの少女――スノウが雇っているプレイヤーショップ用のお留守番NPC――エテルナ。

 すらりとした脚線美が自慢である、とスノウが勝手に認定している少女は、悩みも何もないようなすっきりとした目の覚めるような笑顔だった。

 だからスノウも笑顔で返すのだ。


「おはようございます、ルナさん。ところでひとつ提案なんですが」

「……? なんですか?」


 思いついたことを訊いてみる。

 この世界が、ゲーム内の電脳空間ではないという、ひとつの証明、になるかもしれない話。

 単純に現実を模した仮想現実世界ではないかもしれないという、ひとつの例となるかもしれない話。


「ちょっと『魔術士手術中』って言ってもらえませんか?」

「えっと……、魔術士手術中ですか?」

「はい、ありがとうございました」


 綺麗な発音であっさりと言ったエテルナはきょとんと首を傾げていた。

 でも、ともあれ、である。

 だからといって、ならばなのかを知るのは、また別の問題なので、さっぱりわからないのだけれども。

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