第二章 参集(サンシュウ) 2 優梨
十分ほど遅れて、風岡と影浦は現れた。
風岡と影浦の格好を見て、陽花は仰天の声を上げた。優梨も驚いた。彼らは二人とも自分の学校の制服を着ていたのであった。
「おう! 遅れて悪い! 悪い!」と、風岡はまったく
「悪いじゃないわよ」と、陽花。
「いや、二人で作戦会議しとったら、遅くなってしまったんだ!」
「作戦会議? それより、何よその格好は?」
「見れば分かるだろう? うちの学校の制服だよ」
「じゃなくて、学校もなくてわざわざ栄まで、しかも男女2対2で会うっていうのに、何で制服なのよ?」
「別に悪いかな? 高校生だし。でもまぁ、この服が、俺たちの持っている服でいちばん高くていい服なんだ。つまりこれが
おや、と優梨は思った。風岡の家はそんなに貧乏なのだろうか。風岡の家はそこそこに立派な分譲マンションだった記憶がある。
しかし、陽花を連れてきて正解であった。いがみ合っているように見えても、場は盛り上がっているようだ。優梨ひとりだけでは、おそらくこうも行くまい。そして、制服姿の二人と勝負服姿の優梨だけでは場違い感も
そして、目的の影浦の表情は穏やかそのものだ。少なくとも、電車で怒鳴りつけられた、あの『夕夜』ではなかった。『瑛』だろうか。先ほどから風岡の横でにこやかに笑っているだけなので判別できなかった。しかし、やっぱり影浦を見ると胸が締め付けられて苦しくなるほどの愛しい感情を自覚した。
「で、どこに行けば良いの?」
「あ、混んでると思ってさ、ちゃんと四人で入れる店を予約しておいたんだ」
「予約はいいけど、その格好だとまさかファーストフード店ってことはないんでしょうね?」
「ちゃんと大城と相談したさ。イマドキな女子のこと、俺もよく分からんから。主役に考えてもらうのがいちばんだろう」
四人は栄、正確には栄から一駅の
栄近辺のオシャレなカフェやランチのできる店など、風岡が詳しいはずがなかった。風岡と影浦は基本的にマクドナルドか吉野家にしか行かない。
店員は、怪訝そうな顔をしていたが、四人を奥のテーブルに案内した。ちょっとした個室になっていたので、陽花は安心したようだ。
各々が食べたいもの、飲みたいものを注文した。暑いので、ソフトドリンクはいちばん先に持ってきてもらった。
風岡はわざとらしく声高に唱和した。
「じゃあ、滄女と止社高校との、今後ますますの交流を祈念して、乾杯!」
「こら! 何よ。デカい声で恥ずかしいこと言わないでよ!」
陽花の声も負けず劣らずデカかった。
「せっかくボケたのに、ツッコミ方がなってないな? キミ!」
風岡と陽花の
「まぁ、ひょんなきっかけでコンパみたいになっちゃったけど、せっかくだし、取りあえず名前分からないと不便だし、自己紹介しよまい」
『しよまい』は名古屋弁で『しよう』の意である。
「まず
続いて陽花の番だ。
「アタシは河原陽花よ。現役のバレーボール部だから、身長173センチあるけど、デカ女だなんて言わないでね」陽花の表情はどこか無愛想であった。
「じゃあ、影浦! 言ってくれ」
「え? え? な、何て?」
ここで突然の風岡からのフリに、影浦はひどく慌てた様子で反応した。
「分かってないな! ここは『デカ女』だろう!?」
「風岡ぁ! この野郎!」陽花は風岡を呼び捨てにしていきり立った。
「こんな男勝りじゃ、いくら顔が良くても男は寄ってこんぞ?」
「あんたに言われたかねぇよ!」
この二人、なかなか良い組み合わせかもしれないと思ったのは、私だけだろうか、と優梨は思った。
「じゃあ、影浦の番だな」
影浦はおそるおそるといった様子で、自己紹介を開始した。と、同時に優梨も傾聴する。
「か、影浦……と言います。アルバイトはやっているけど部活はやっていません。僕はこんな性格なので、仲良くしてくれるのは風岡くんくらいだけど、どうかよろしくお願いします」
今の人格はきっと『瑛』だ。姓だけで名を名乗らなかったが、一人称が『僕』であるあたりおそらくそうだ。そして『こんな性格』と言ったのは、自分に乱暴な交代人格がいることを自分でもしっかり認識しているためだろうか。名を名乗らなかったのもそのような側面からなのだろうか。優梨はいろいろ思案した。
「じゃあ、最後! そこの女優のような大城。影浦に自己紹介してやってくれ」
「へっ?」
影浦の自己紹介を分析していて、急な自分の自己紹介のフリに戸惑ってしまって、見た目に似合わない
「だって、他のみんなはもう自己紹介終わっただろうが」
「あ、そうだね。ハイ。わたくし、お、大城優梨という者です。影浦さん、どうも、はじめ……あ、いや、二度目まして、か。今日は皆様休日に貴重なお時間を割いて、こんな素敵な場を設けて頂きありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します」
そう言って、優梨は思わず一礼していた。我ながら、真面目が過ぎていて変だった。
「おいおい。『ありがとうございました』って、これから始まるのに、もう閉会の辞みたいになっとるじゃないか?」風岡がツッコむ。
「ププ……優梨、すごく緊張しているねぇ!」陽花にいたっては今にも吹き出しそうだった。
それから優梨の顔が、また一段と赤くなったことは言うまでもないことだった。先ほど風岡に『女優のような』と形容されたが、自分にいちばん足りないものは演技力だと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます