黄泉國 2

 ——かぽーん。

 部屋一帯に音が鳴りびく。

 ここは黄泉國のホワイトハウスのような場所で、外見が禍々しい神社で、内装が高級そうな広間だったはず……。


 「……いったい何故こんなことに。」


 今はこの世界の頂点(?)の伊邪那美いざなみと呼ばれている幼女と一糸まとわぬ姿で共に広い浴槽に浸かっている。


 「何故と言われてものう……儂は風呂に入りたい。しかし、客であるお主が来ておるのに待たせるのも酷であろう?だから共に入れと言ったのじゃ。」


 「いや……だったら待たせてもらった方が俺としては気持ち的に楽だったんだが……」



 浴槽の大きさは銭湯の大浴場と同じ広さなのだが、イザナミと早人の距離はとても近く、肩と肩が当たるほどの距離だった。

 いくら幼い姿をしているとしても、異性との関わりが一切なかった早人にとって未知との境遇だった。


 「さて、お主……名前は何というんじゃ?連れてきたのはいいのじゃが、まだ名前を知らんのでな。」

 「……飯綱早人。」

 「ふむ、良い名じゃ。」


 名前を聞かれただけだというのに、早人の心臓の鼓動が早くなる。

 その事に気づいたのか、猫耳を動かした少女(服を着た状態)が会話に入って来た。


 「へぇー。お兄さんは早人ってお名前だったんですかー。これからもよろしくお願いしますね。早人さん♪」

 「あ、ああ……」

 そして空気の読めない幼女がまたとんでもない一言を言い放つ。


 「ところで何故お前は風呂に入らないんじゃ?ここは風呂場じゃぞ。服を着ていることがオカシイのではないのか?」


 本日2回目の爆弾発言に早人も動揺するが、少女は笑顔で返答してくる。


 「いやいや、私は猫ですから。水とか嫌いなんですよー。」

 「ほう……ならば仕方ないのう。嫌がる女子おなごを無理やり服を脱がすのは性に合わん。」

 

 (何を言っているんだこいつは……)


 心の中で思った早人であったが、その瞬間イザナミがこちらを見てにやりと笑う。


 「まぁ、女を知らずに死んでしまったお主にとっては何を言っているのかさっぱりだと思うがのう……」

 「!?」

 「なんじゃ?心を読まれたことに驚いているのか?」

 「い、いや……。」

 「儂を誰だと思うとるんじゃ?黄泉國の神じゃぞ。]


 心を読めるのような言い方をするイザナミだが、それを見て笑う少女。


 「ところで、早人さんをここに連れてきた理由を説明しなくてもいいんですか?早人さんも色々私に質問してきたんですが、イザナミちゃまがここで話すからお前は話すなって言うから全然お話しできなかったんですよー。」

 「おお、そうであったな。では早人よ。まずはお前を呼んだ理由から説明するとしよう。」


 イザナミは浴槽からあがり、少女からバスタオルを肌に巻き付かせ、早人の正面に立つ。

 早人は見上げる形になるが、バスタオルを巻いた彼女は何もつけていない時よりもエロスを感じる。


 「さて、お主をここに連れ来た理由じゃが、まずは普通の人間がいないことに気づいたと思う。そこから説明してやろう。」

 「あ、ああ……」

 イザナミの声のトーンが少し落としてゆっくりと説明していく。


 「今現在で、黄泉國に人間と呼べる者はお主だけじゃ。お主もコイツに連れてこられなければ、三途の川で他の人間達と同じ道にいくはずじゃった。」

 「私も久々に人を連れましたからねー。あれ?人間を黄泉國までつれてきたのは初めてだったかな?」

 「初めてに決まっておるじゃろ。人間が黄泉國にいることなんぞ千年以上ない事なんじゃぞ。」

 「あははー♪そうでしたねー」


 少女は軽く笑っているが、早人からすれば笑いごとではない。

 人間が自分しか存在しないという真実。

 そして今早人の目の前にいる女の子二人と、東京に似た街並みにいた数多くの者達が人間ではないと完全に否定されてしまい早人は落ち込む事しかできなかった。


 そんな早人を見てイザナミ達は優しく早人に話しかける。


 「そこまで落ち込まなくてもよかろう。次第に慣れる。」

 「そうですよー。それに……早人さんはまだ人間ですが、もうそろそろ人間じゃなくなるんですからー」

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