第1楽章 春 -Primavera-

4月 Floréal

Episode 1. La mer 海




 雲一つない青空。

 どこまでも広がる遠浅の海。

 そんな場所。


 僕はこの砂浜に毎朝来て、絵のようなその光景を眺めるのが好きだ。

 周りはみんな、いつもいつも同じ景色を見て何が面白いんだとかいうけれど、そんなことは気にしていない。


 今朝もまた、そうして砂浜を歩いている。

 その時まで、僕の日常は続いていた。

 そう、彼女と出会うまでは——。


 遠くの砂浜に、何かの影が映っているのが見えた。

 ここにやってくる人間は、この時間では自分以外にはほとんどいない。いつもと違うことがあったら、気になってしまうのは人間のさがだと思う。

 僕はその影に近づいていった。


 初めはただそこに何かが立っている、くらいに見えていたのが、近づくごとにその姿がはっきりわかるようになってきた。


 夜の海を照らす月のような白い肌に、腰のあたりまで伸びた長い髪が、日の光を浴びてきらきらと輝いている。

 その色は、恐らく銀か白か。


 女の子だけど、挨拶くらいはしておいた方が良さそうかな、と思い、彼女の元へと歩を進めた。


 彼女が、白いワンピースに裸足はだしという奇妙な格好で、海の方を向いているのが見えた。


 話ができる間合いまでさらに近づいた、その瞬間。

 彼女が僕の方を向く。

 銀色の髪が、少しだけ風に揺れた。


「私は、誰——?」


 彼女の青い目は確かに僕と合っていたが、明らかに僕へ向けたものではないその一言を発したかと思いきや、気を失い、そのまま後ろ向きに倒れた。



「だ、大丈夫!? 聞こえる!?」


 体を揺さぶってみても、反応がない。

 誰か助けを呼ぼうにも、人もいなければ電話もない。

(どうしよう……)

 かといってこのまま彼女を放置しておくのは最悪だ。

 困り果てた僕は、いったん彼女を家へ連れて帰ることにした。

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