第27話

 小林精機を後にした凌介達は、次に国際先端医療センターを訪問する予定になっていた。半身付随となった日本人一名の救助が主な目的だが、捜索対象の森田が度々訪れていた場所でもあることから、センター周辺の聞き込みも行うことになっていた。

 「ここでは単独行動ができそうだぜ。お前はここで聞きたいことがいろいろあるんだろ?」

 装甲車を降りて病院の受付へ向かう途中、剛が凌介にささやいた。

 「ああ。俺が入院していた頃のことも聞いてみたいと思っている。誰か当時を覚えている人がいればいいんだが」

 昨日のシャリフの話では、凌介は国際先端医療センターで一週間も昏睡状態にあったということであった。凌介は、テロの前に脳神経外科病棟で見た光景を思い出していた。そこには、頭にヘッドギアのような異様な装置を取り付けられた患者がいた。おそらく、自分も何か特殊な治療をされたのだ。ここに来れば何かわかるのではないか、と凌介は期待した。だが、受付で凌介が脳神経外科について尋ねたときの返事は意外なものであった。

 「当病院の脳神経外科は廃止されています。もう、何年も前に」

 「そんな……私が四年前に来たときは、イルハン博士という著名な先生もおられたのですが」

 「四年前ですか。廃止になったのもその頃ですね。そのイルハン先生がお辞めになったため、廃止が決まったと聞いています」

 凌介は、イルハンが既にここにいないということまでは知っていたが、脳神経外科そのものがそんな昔に無くなっているとは思ってもいなかった。

 「イルハン博士はどこに行かれたのでしょうか?」

 「申し訳ありませんが、そこまでは関知しておりません」

 「では、当時の脳神経外科をご存知の方はおられませんか。そうだ、マチルダという看護師の方がおられるはずです」

 「マチルダですか……彼女ももう、辞めていますね」

 ——何てことだ。収穫ゼロじゃないか。せっかく、ここまで来れたのに。

 凌介は受付の女性に礼を言い、剛と一緒に待合室の椅子に腰掛けた。

 「残念だが、どうやら当てが外れたようだな」

 「ああ。どうしたもんかな」

 凌介は背もたれに体を預け、天を仰いで考えた。

 ——もう少し事情を話して、イルハンの行き先を教えてもらうように交渉するか。だが、どうやって話すんだ? 頭の中に装置を入れられたようなんです、と言っても、信じてもらえるわけがない。逆に精神が病んでいるのではないかと警戒されそうだ……

 凌介はしばらく黙って考えていたが、何も良い案は浮かばなかった。すると唐突に剛が口を開いた。

 「腹、減ったな」

 「何?」

 「腹が減ったと言ったんだ。まだ十一時だが、こうして途方に暮れているより、気分を変えて飯にでも行こうぜ。しばらく自由行動なんだからよ」

 凌介は四年前にマリオンで食事をしたときのことを思い出した。

 ——そうだ。もう一箇所行くところがあったじゃないか。

 凌介は思わず笑みがこぼれた。

 「剛」

 「何だ? ニヤニヤして……気持ち悪いな」

 「ありがとう。おかげで行くところを思い出したよ。よし、飯に行こう!」

 二人は看護師をしていたマチルダの姉、メイサが経営する料理店「ジェイド」に向かった。

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