第19話

 凌介は目を覚ましたとき、横になっていた。貫かれるような痛みではなくなっていたが、まだ頭痛は治まっていない。義足は外されていた。指先の感覚から、体の下には布団が敷かれているように思われた。凌介の部屋は和室になっており、泊まり込む場合に備えて布団も置かれている。永井が連れてきてくれたのだろうか——凌介が布団から起き上がると、永井が心配そうに声をかけてきた。

 「よかった、気が付いたんですね。突然倒れたので、マジでビックリしましたよ」

 「俺は、どれぐらい気を失っていたのかな?」

 「うーん……二、三分ぐらいですかね。早瀬さん、一度貧血で倒れたことありましたよね。今回も貧血かと思ったんですど、意識が無いんで、救急車を呼んだ方がいいんじゃないか、という話をしていたんですよ。もう、大丈夫っスか?」

 「頭痛がひどい。二日酔いにでもなったようだよ」

 「何でしょうね……病院に行かれますか」

 「大丈夫だよ。ただ……」

 「何です?」

 果たして信じてもらえるだろうか、という疑問も湧いたが、凌介は感じたことをそのまま話すことにした。

 「森田さんの姿が見えたんだ。はっきりとね」

 「どういうことっスか? 見えるようになったんです? でも森田さんって……」

 「いや、今は見えないよ。でも、さっきは森田さんの姿が見えたんだ。もちろん、森田さんがここにいるはずはないんだけど。でも目の前に白衣を来た森田さんがいて、それでこう、こちらに手を伸ばしてきたところで、頭が痛くなって……その後は記憶に無い」

 「エーッ! 森田さんって、あの行方不明の森田さんですよね?」 

 女性の甲高い声がした。

 「アイちゃんもいたのか……そうだよ」

 「森田さんがいた部屋で森田さんの姿が見えたんですか? それはつまり、森田さんの霊があそこに帰って来て、それを早瀬さんが見たっていう……もしかして、早瀬さんって霊感があるんですか?」

 「おいおい、何を言い出すんだ。勝手に森田さんを死んだことにしないでくれよ。でも、たしかに見えたんだ」

 永井とアイは困惑した表情で目を合わせた。

 「いやぁ……失礼ですけど、俺たちの方こそ、『早瀬さん、何を言い出すんだ』って感じっス」

 永井が苦笑いを浮かべながら、凌介に言った。凌介も森田の姿が見えたという事実を頑なに主張する気にはならなかった。

 「まぁ、信じられないよね、こんな話。夢か幻覚を見たんだ、多分。よし、この話はこれで終わりにしよう」

 凌介がそう言いながら、布団を畳もうとしたところ、布団の傍にある目覚まし時計が音声で午後二時を告げた。

 「ヤバイ、もう進捗会議の時間ですよ」

 「そういや、今日は会議が続く日だった……急いで行こう」

 凌介が布団をそのままにして土間になっている部屋の出入り口に向かうと、永井とアイが慣れた手つきで義足の装着を手伝った。それから永井が凌介を誘導する形で、三人は会議室へと向かった。

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