第6話
マリオンへ移動するため、凌介達は再びザベル国際空港に戻ってきていた。マリオンのナヘル国際空港行きの便はまもなく搭乗開始時刻を迎えるが、搭乗口で待っている乗客の姿はまばらであった。
「アデルは、ゴダリア人も行こうとはしない、って言ってましたけど、治安のせいか、やっぱり乗客が少ないですね」
「治安のせいもあるでしょうけど、マリオンに行く人はいつもそんなに多くないわよ。観光客が集まるところじゃないですからね」
「森田さんは、どうやってマリオンの国会議員と知り合いになったんです?」
「あら、話してなかったかしら……マリオンに鉱山があるのは知ってる?」
「ええ、ダイヤや
「そうね、いくつかの鉱物が取れるんだけど、落盤とか爆発といった事故も多いのよ。鉱山のすぐ傍にも病院があるんだけど、少し離れたところに国際先端医療センターというところがあってね、そこで鉱山事故で障害を負った人達が元の生活に戻るための手段として、うちの義手を使ってみたいという話が来たわけ。それで私が義手を持ってアデルと国際先端医療センターに行ったのよ」
「そう言えば、義手を持ってアフリカに行かれたことがありましたね。」
「あの時に手続きしてもらったのは早瀬君とは違ったから、あまり知らないでしょうけど、いろいろ面倒だったのよ。それはともかく、そこに義手を持って行ったら、政府の人もいて、それが今回会うサイードだったのよ。国際先端医療センターってところはね、政府からかなり資金援助を受けていて、高額な医療機器は政府のチェックも入るらしいわ。うちの義手はそんな高いものじゃないんだけど、たまたまサイードが目にして、これをマリオンのビジネスにできないか、って思ったらしいの」
「そうなんですか。ビジネスとしてはニッチな分野という気がしますが」
「まあ、そうね。でも、国際先端医療センターの研究成果からゴダリアの医用生体工学のベンチャー企業が生まれたりしているのよ。マリオンはゴダリアに比べると人件費が随分安いし、精密機器の工場もいくつかあって、アポロン社も安い生産拠点を探していたから、お互いにとっていい話ではあったのよ。結局、マリオンの小林精機というところが、アポロン社に部品を供給することになったわ。うちが今使っている義手にも使われているのよ」
「それは知りませんでした。小林精機ってのは、日本の企業ですか?」
「元々は日本の企業の生産拠点だったところらしいんだけど、今は独立しているわ。社長が小林さんで、今回マリオンを案内してくださるのもその方よ」
「社長さんが、ですか?」
「ええ。マリオン政府との打ち合わせに小林社長も参加されると聞いて、連絡を取ってみたんだけど、その日は工場がお休みだから私が朝から案内します、って言ってくださったの。私も、小林さんが案内してくださるなら安心かな、と思って、ついお願いしちゃったわ」
現地に詳しい人間がいるから心配ない、と森田が言っていたことを凌介は思い出した。
二人の会話は搭乗開始のアナウンスで打ち切られ、凌介達はマリオン行きの飛行機に乗り込んだ。
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