Second cat last≒first/first≒last

Second cat last≒first/first≒last




 蒼い空に、桜の花びらが舞う。

 ソウタは灰猫の桜の枝に腰掛け、海の向こうへと去っていく花びらを見つめていた。

「トウキョウタワーまで、飛んでいくのかな?」

 隣に座るハルが言葉を発する。ハルに顔を向けると、りんと鈴を鳴らし、彼女はソウタに微笑んだ。

「桜の花びらは、義母さんの故郷に飛んでいける……。ちょっと羨ましいな」

 銀の瞳を寂しげに伏せ、彼女は海原の果に聳える壁を見つめた。壁の向こう側には、蒼い空を背景にトウキョウタワーが建っている。

 あそこからハルの義母サクラ・コノハはやって来たのだ。ハルは叶わないとわかっていながらも、壁の向こうにある義母の故郷に焦がれている。そんなハルを慰めたくて、ソウタは言葉をかけていた。

「行こうよ、ハル。お義母さんの故郷に」

 ネコミミの鈴を驚いたように鳴らし、ハルはソウタを見つめた。ハルに微笑み、ソウタは続けた。

「俺が、連れてってあげる。いつになるかわからないけど、絶対に。約束するよ、絶対にハルを壁の向こう側に連れて行く」

「ソウタ……くん」

「ハルが教えてくれたから……諦めちゃ、いけないんだって」

 鎮魂祭の日、観客に頭をさげたハルの姿を、ソウタは思い出していた。凛とした眼差しを観客に向け、彼女は自分の強い意志をはっきりと示したのだ。

 ――ソウタ、私ね、後悔しないで毎日を生きようと思うんだ。

 サツキが残してくれた言葉を、思いだす。

 もう後悔はしない。生きる強さを教えてくれたハルのために、自分は精一杯できることをしよう。

 彼女がくれたかけがえのない物を、少しでも返すために。

 そっとソウタはハルに小指を差し出す。ハルは嬉しそうにネコミミをゆらしながら、ソウタの小指に自分のそれを絡めてきた。

「ソウタくんも、約束してくれる?」

「なに?」

「あなたの音で、これからも歌をうたいたいの。駄目、かな」

 ハルが首を傾げ、問いかけてくる。

 ちりんと彼女の鈴が、可憐な音をたてた。その音を聞いて、ソウタの心臓が大きく高鳴る。びくりとネコミミを逆立て、ハルが頬を桜色に染める。彼女は恥ずかしそうに瞳を潤ませ、ソウタを見つめてきた。

「いいよ……ハル。歌って、俺の音で」

「ソウタくん……」

 笑みを深め、ソウタはハルに答えてみせる。ハルは嬉しそうに瞳を綻ばせ、微笑んだ。

 春風が吹く。

 灰猫の桜から花びらが散り、風に乗って舞いあがった。

 舞いあがる花びらを嬉しそうに見つめながら、ハルは歌を紡ぎ出す。

 うたわれるのは、希望の歌。

 理想の地を夢見て旅立つ、少年少女の物語をハルは歌ってみせる。

 ソウタの心臓が静かに鼓動を奏でる。その音に合せ、ハルは優しい旋律を生み出していく。

 ハルの歌を乗せ、春風が西方へと流れていく。

 ソウタは風に促されるまま、前方へと顔を向けていた。視界に、トウキョウタワーが映り込む。

 あそこに、ハルを連れて行こう。

 彼女を抱いて、あの壁を超えて、どこまでも、どこまでも跳んでいくのだ。

 希望がみえる、遠い未来まで――


              

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