第31話


 ごそごそと動いて、先に外に出た啓が、初花に手を差し伸べる。

 その手を受け取って、初花は、秘密基地の外へ出た。

 空には満点の星空。

 先程の雨が嘘だったかのような、雲一つ無い空だった。

 キラキラと何億光年も先の星が、瞬いていた。

「おお!」

 歓声を上げる初花の横で、啓がしたり顔で言った。

「ふっふっふ~! ここは実は、天体観測の穴場なんだよ。星、キレイだろ~」

 星の光を眺めながら、啓と初花は空を見上げる。

 なんとなく、手は繋いだままだった。

 二人の指先は、熱かった。


 暫く星を眺めてから、ボソッと初花が呟いた。

「まあ、大人の事情ってやつなのかもな」

「そうかもな」

 啓の相槌を聞いてから、初花は「んーっ」と伸びをした。

 そして、

「ま、探されてたらしいし、お父様も心配してるだろうし、今日のところはうちに帰ってやろうかな」

 と提案した。

「それがいい」

 安心して、ふっと気が緩まり、つい口元も緩んだ啓は、初花の意見を肯定した。

 更に初花が秘密基地の中に入ったのを啓も追いかけて、中をサッと片付けて、二人で歩いて初花の家に向かった。

 土砂崩れのあった場所は、二人が歩く頃には跡形も無くて、啓は腰を抜かした。

 それを見て、初花は笑った。

 そして、上空で、着物姿の幼女も同じように快活に笑っていた。

「――じゃから、神様だと言うたであろ?」

 啓にだけ聞こえる声が、そう、脳に囁いた。

 啓は、またしても、腰を抜かした。


 途中、神来神社を通る啓は、境内を見回して、

「ありがとうございました!」

 と言った。

「どうしたんだ?」

 初花が不思議に思って尋ねる。

「いや、さっき、えっと、……説明してたら信じる?」

 啓が真剣な眼差しで問うので、初花が訝しんだ。

「一体、何がだ?」

「あのなー、さっき、初花を探しに秘密基地に行ったんだ、俺」

「そうだな」

「そこで、幼女に会ったの」

「こんな時間にか?」

「ああ。んで、その幼女っていうのに、前にも会ったことがあって」

「ふむ」

「いや、高校の入学式の帰りに、一緒に帰ったっていうか……あの時も、消えたんだよなあ」

「意味が分からないぞ、啓」

「あー。俺も混乱してるけど、一つだけ、言える事がある」

「なんだ?」

「――神様に俺は助けられた! だから御礼を言った!」

「はああああああああああああああ?」

 と、大声で盛大に感情を口から漏らした後、初花は凄く変な顔をした。それを見て啓は慌てて付け足す。

「いや、ほんとだって! 土砂崩れだって直してくれたんだよ!」

「そんな非科学的なことがあるのか?」

「え! 初花、まさか神様信じてないの?」

「いや、うちは神道だ。だから信じてはいるけど、今のは、そういう意味ではない」

「いや、ほんとだって! マジックみたいな! そういえば俺、浮いたの!」

 初花は啓の発言に、なにか可哀想な子を見るような顔をした。

「……啓、わたしを探すのが大変だったのは、よおおおおおっくわかった。わかったから、落ち着け、な」

「あ! ほんとなんだって! マジマジマジ!」

「……ふっ」

「あ! 馬鹿にした! 今、馬鹿にした!」

「してない」

「初花見付けられたのも俺の日頃の行いが正しいからで、神様が味方してたからなんだぞ! ちょっとは俺を敬え!」

「アリガトウゴザイマス、ケイサマ」

「あ! 全然敬ってない!」

「敬ってる、敬ってる」

 そうやって啓と初花は少し賑やかに近所迷惑に暫く歩いた。



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