第27話



 次の日の朝。

 登校した啓が席に座ると、先に学校に来ていた初花が、啓の机の前までやってきた。

 やはり、昨日と同じ真っ赤な顔をしている。

「お、おはよ……」

 ぎこちなく初花は啓に笑いかけた。

「お、おはよ」

 啓も挨拶した。

 すると、手にした紙袋を初花が押しつけるようにして啓に渡した。

 中身が見えないように紙袋に入れてあるが、啓にはそれが何か判った。

「こ、これ……」

 初花は中身を思い出したのか、俯いて、更に真っ赤になった。

「ほらみろ、言わんこっちゃない……」

 初花は啓の発言を聞いて、顔を上げた。

 真っ直ぐ啓を見据えて、口を開いた。

「も、もう大丈夫だから! き、き、基地にもこういうの、持って来い」

「わかった。って、え……」

 反射的に肯定してから、言葉の意味を理解して、啓は驚いた。

 初花は少しだけ口ごもってから、意を決したように、大きく息を吸った。

「……だから! こういうものが基地にあったほうが、より秘密基地らしいだろ! 秘密基地で友達同士が、こ、こういう本を読み回すって聞いたぞ!」

 そう言い訳がましく付け足した。

「――だから、持ってくるの!」

 最後に、先程より気持ち大きな声で初花は言い直した。だが、真っ赤な顔を見せまいとして目を逸らしてお願いしている。

 そんな初花の可愛い姿を見て、啓の答えは一つだった。

「……お、おう……」

 そんなこんなで結局エロ本は毎回基地に置くことになった。

 おまけに、どうやら初花は隠れて熱心にエロ本を読んでいるらしかった。

 そして、たまに凄い単語を口から溢れさせて、啓を質問攻めにするのだった。


 そんなこんなで充実した――しかし、ある種奇妙な――学生生活を送っていたところ、突如、その騒動はやってきたのだった。

 その事件の前日は、いつも以上に初花が上機嫌だったので、啓もよく覚えていた。

 曰く、「お父様が久し振りに帰って来るんだ!」と。

 ニコニコと初花が語るので、啓も嬉しくなって、「そうか。良かったな」と初花の頭を撫でたのだった。


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